Japanese Sword Boom 001

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ゲームや漫画、アニメなどの効果もあり、「刀剣ブーム」が続いている。海外でも日本刀への注目が集まる中、備前長船(おさふね)地区(岡山県瀬戸内市)の「備前長船刀剣博物館」で多言語支援員を務める英国人男性がいる。トゥミ・グレンデル・マーカンさん(28)。「いつかはここで働きたいとの願いがかなった。千年以上受け継がれてきた歴史の重み、数々の伝統工芸が集約され、五感で味わえる魅力を伝えていきたい」と意気込んでいる。

 

 

インバウンドのガイド

 

博物館に隣接する工房で毎月第2日曜の午前と午後に行われる「公開古式鍛錬」にトゥミさんの姿があった。たたら製鉄の工程の一つで、ふいごで送風する炉内で原料の玉鋼を熱し、3人の刀工が真っ赤になった玉鋼をつちで繰り返したたき、鍛錬した。

 

トゥミさんは見学する外国人グループに対し、刀工の説明や作業の様子を手ぶりを交えて伝えていた。

 

多言語支援員の役割は団体バスツアーや古式鍛錬見学の外国人へのガイド、展示解説の英語キャプションの作成、交流サイト(SNS)による国内外への発信などだ。

 

同館の塩田勇館長は「日本刀は専門用語が多く、説明するのが難しい。例えば、焼刃の形を指す刃文のうち、粒子が少し粗いのを沸(にえ)、くもりガラス状の肉眼で見えにくい粒子を匂(におい)と呼ぶなど、一般的な言葉がなかったり意味がかけ離れている場合があり、知識がないと正確に伝えられない」と指摘する。

 

刀剣博物館に隣接する工房で行われた日本刀の古式鍛錬=岡山県瀬戸内市(和田基宏撮影)

 

同館は鎌倉時代中期から昭和初期まで連綿と続いた刀工「長船派」の拠点、長船地区に昭和58年、日本刀常設展示のある長船町立博物館として開設され、合併で瀬戸内市ができた平成16年に日本刀の専門博物館に生まれ変わった。

 

戦国武将、上杉謙信の愛刀として知られ、旧長船町に拠点があった刀工「福岡一文字派」が生み出した国宝「太刀 無銘 一文字(山鳥毛(さんちょうもう))」をはじめ、備前の刀を中心に約400振りを収蔵し、常時約40振りを展示。山鳥毛は年1回の展示公開期間がある。

 

 

鍛冶、武器に魅せられて

 

トゥミさんは子供の頃から、ものづくりが好きで「火花が飛んだり独特の音がする作業が印象的」と次第に鍛冶に興味を持っていったという。

 

「鍛冶は日本が有名で、19歳の誕生日に母親から本をプレゼントされた」。その本は有名な現代刀匠、吉原義人(よしんど)さんの英訳書。「世界の武器を探求していくようになり日本刀が持つ圧倒的な存在感に魅了された」と振り返る。

 

UCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)で考古金属学を専攻し、大学2年の夏休みに文化交流短期留学プログラムなどを利用して日本に1カ月ほど滞在。各地の博物館を巡り、備前長船も訪れた。

 

古式鍛錬の外国人見学者をガイドするトゥミ・グレンデル・マーカンさん(中央)=岡山県瀬戸内市(和田基宏撮影)

 

「日本刀を初めて見たのは大英博物館の展示だが、日本刀が生まれた国で見た印象は格別。田園風景の中に突然現れる博物館、多くの日本刀が整然と並ぶ展示を見て、ここでいつか働きたいという思いが湧き出した」と回想する。

 

大学卒業後、大和日英基金の奨学金プログラムで日本に20カ月間滞在し、最後の半年を瀬戸内市秘書広報課と刀剣博物館でインターンとして過ごした。

 

多言語支援員の公募に合格し「日本刀を学ぶのには最適な場所。運がよすぎる」と、大喜びした。

 

 

伝統工芸、日本文化の結晶

 

日本刀の始まりは平安時代後期とされ、鎌倉中期にかけ、貴族社会から武家社会へ移る中で武器としても多く作られ、明治9年の廃刀令まで刀工は繁栄と衰退を繰り返した。第二次世界大戦後、日本で占領政策を実施したGHQ(連合国軍総司令部)が武器を接収し、日本刀も絶滅の危機に瀕したが、美術工芸品との認知が広がり、今もつくり続けられている。

 

近年はゲーム「戦国BASARA」や漫画・アニメ「るろうに剣心」「鬼滅の刃」などで刀剣ブームが定着。山鳥毛がゲーム「刀剣乱舞」で擬人化したキャラクターになったことで、同館の注目度は急上昇。新型コロナウイルス禍の前には年間約2千人の外国人が来訪する状況だった。

 

トゥミ・グレンデル・マーカンさんの豊富な専門知識を生かした英語による解説文=岡山県瀬戸内市(和田基宏撮影)

 

瀬戸内市では文化庁の補助事業「『日本刀の聖地』拠点計画」に基づき、多言語支援員を公募した結果、トゥミさんが令和4年5月に採用された(所属は市文化観光課)。塩田館長は「真面目で勉強熱心であり、性格は明るく好奇心旺盛で伸びしろが見込める。海外にアピールする役割は重要度が増している」と、期待を寄せる。

 

「刀剣は権力の象徴でもあり、神社への奉納、お守りとしての崇拝など宗教的な側面もある。刀鍛冶、研ぎ、鞘(さや)、装飾としての漆芸・蒔絵(まきえ)、彫金などの技が必要で、総合的な伝統工芸であり日本文化の結晶」とトゥミさん。今後については、「昔から職人さんに憧れており、日本に残り日本刀や職人さんのそばでもっと勉強したい。博物館との関わりを続けながら、職人さんとの関わり、ものづくりの学びを通じて、日本刀の製作技術や美しさをさらに理解していきたい」と明かした。

 

筆者:和田基宏(産経新聞)

 

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