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アフガニスタンの政権崩壊の衝撃波をワシントンで感じていると、どうしてもベトナム戦争の体験を連想させられた。首都カブールからの米国人やアフガン市民の混乱きわまる大脱出が南ベトナムの首都サイゴン(現ホーチミン市)での悲劇と酷似しているとの指摘が多いからだ。
1975年4月末のサイゴン陥落を、私はその渦中で全体験した。米国大使館や空港からの大量脱出の混乱は確かにカブールの惨状と似ていた。ただし南ベトナムでは米軍はその2年前に全面撤退していた。南ベトナム政権はその後、北ベトナムと自力で戦った。この点、米軍の撤退が終わらないうちに現政権が崩壊したアフガンの現状はさらに悲惨である。
両政権に共通するのは自国の防衛への米国の誓約が一方的に打ち切られた点である。この点は日本を含め米国に安全保障を依存する同盟諸国も無関心ではいられないだろう。
ワシントンではバイデン米大統領の唐突なアフガン全面離脱策への超党派の非難がものすごい。歴代政権の対外政策の失態でもこれほど広く激しい糾弾は珍しい。
米国がアフガンへの20年来の介入をやめるという基本戦略はトランプ前政権も決めていた。だが、いつ、いかに撤退するかはアフガン政権やイスラム原理主義勢力タリバンの動向次第だとしていた。バイデン氏は8月末までの全面撤退を突然、発表し、アフガンの政府や国軍が統治を堅持できると宣言した。しかしその統治はタリバンの攻勢の前に一気に崩れてしまった。
バイデン氏への非難は当然、共和党側でとくに激しい。「大統領は軍部の勧告を無視して拙速な撤退を断行し、アフガン在留の米国民の生命を不必要に危険にさらした」(上院軍事委員会のトム・コットン議員)という主張から弾劾を求める声までが起きた。
注目すべきは民主党側でもボブ・メネンデス上院外交委員長が「失望的な政策の失敗」と断じ、責任追及の公聴会開催を求めた点である。この種の批判はバイデン氏の統治能力への疑問にまで発展している。
とくにバイデン氏が20日の記者会見などで述べた言葉が事実に反することが次々に指摘された。
バイデン氏はアフガニスタンで米国との共同作戦の相手だった北大西洋条約機構(NATO)諸国が今回の措置で米国への信頼を減らさないかとの質問に「まったくそんなことはなく、実態はその逆だ」と述べた。
だが現実にはイギリス、フランス、ドイツでは現旧首脳や有力議員からバイデン大統領の措置に「恥ずべきだ」「愚かな失敗」という非難の声が上がった。
バイデン氏は「アフガンではテロ組織アルカーイダをもう排除した」と言明した。だが、その直後に米国防総省報道官が「アルカーイダはアフガンになお存在する」と述べた。
同氏はさらに「米国民のカブール空港への通行はタリバンが安全を保証している」とも明言した。だがカブールの米国大使館は米国民の同空港への通行は危険だと警告していた。
このためニューヨーク・タイムズのような民主党支持のメディアも「バイデン発言の事実無視」を指摘し、バイデン氏の事実認識や統治の能力への懐疑までが浮かんできた。
筆者:古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)
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2021年8月24日付産経新聞【緯度経度】を転載しています