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米アップルや中国インターネット検索大手の百度(バイドゥ)などIT大手の参入の動きに加え、米老舗メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターも本格的に経営の主戦場に位置づけ、電気自動車(EV)市場が戦国時代入りの様相だ。世界的な脱炭素の潮流を背景にEV投資にかじを切る企業が相次ぐ中、自動車販売で世界首位に立つトヨタ自動車は牙城を守れるのか。米中IT大手の挑戦で競争のポイントも大きく変わる。
2024年にもEVの生産を始めるとのロイター通信の報道をきっかけに俄然(がぜん)、動向が注目されているアップル。同社の公式発表はないが、トヨタが〝アップルカー〟と対峙(たいじ)することになればどうなるのか。
まずアップルのEV参入の背景だが、同社が14年ごろから「プロジェクト・タイタン」という自動運転技術の開発計画を進めていたことは広く知られている。狙いは車を動かす頭脳、人工知能(AI)だ。本業のパソコンやスマートフォンの頭脳(基本ソフト=OS)の延長線上にあるAIの応用先に、暮らしに欠かせない車を選び、モーター駆動などソフト技術との親和性が高まる電動化の加速で参入の機が熟し始めたわけだ。
かねて自動運転ソフトを開発する「アポロ計画」を立ち上げていたバイドゥの狙いもAIの主導権で、両社が手掛けたいのは車のハード性能を競う従来の自動車づくりとは異なる。
トヨタにとって、アップルとの対決の中核となるのはAIソフトを前提とする新たな車づくりの力量ということになるが、実はその準備は着実に進んでいる。
東京五輪・パラリンピックの選手村。そして2月23日、富士山のふもと(静岡県裾野市)でトヨタが着工した先進技術の実験都市「ウーブン・シティ」内の移動手段として使われる自動運転EV「e-Palette(eパレット)」は、ソフト技術を主体とするAI時代の車づくりを具現化したもので、すでに実用化が視野に入っている。
トヨタは昨年11月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界中の販売関係者らが集まる4年に1度の重要イベント「トヨタ世界大会」をオンラインで実施。この席で、豊田章男社長は自動車製造と同じだけの力をソフトウエアに注ぐことを宣言したという。
その言葉通り、eパレットやウーブン・シティを支えるトヨタのソフト開発子会社には今年1月の体制刷新に合わせて豊田社長が私財を投じ、経営陣の一角は豊田氏の子息、大輔氏が務める力の入れようだ。トヨタの経営に大きな責任を持つ創業家はAIソフトの戦いに照準を合わせている。
もちろん、IT業界の巨人のアップルに対し、トヨタがソフト技術で優位性を得られる保証はない。
アップルの最終利益は574億ドル(20年9月期=約6兆円)と、トヨタ(20年3月期=2兆761億円)の約3倍。アップルは、グローバル企業のブランド価値ランキング(米インターブランド社の算出データ)でも、20年まで8年連続で1位を獲得。評価額は約3230億ドルで、トヨタ(約515億ドルで7位)の6・2倍にも上る。この圧倒的なブランド力と資金力による技術への信頼感が、アップルカーへの大きな期待につながっており、売り出されればかなりの顧客を獲得する可能性は高い。
だが、トヨタにも勝ち目はある。
1つ例を挙げよう。アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏が初めて世に送り出したスマートフォン。その頭脳であるOSの市場シェアの世界首位はアップルではない。米調査会社IDCの20年の市場シェア推計によると、トップは米グーグルの「アンドロイド」で84・8%、アップルは15・2%だ。OSを自社製品だけの頭脳とすることでブランド価値を維持するアップルに対し、グーグルは他の多くの企業も使えるように技術を開放することでシェアを拡大した。
豊田社長は昨年来、経営の重要ポイントは「仲間づくり」と繰り返し発言しているが、これはアンドロイドの戦略に通じる。
トヨタは近年、自動運転技術ではNTTやソフトバンクグループ、米新興企業のオーロラ、車とインターネットの連携サービスではアップルに並ぶ巨大ITのアマゾンやマイクロソフト、EV分野では中国メーカーの比亜迪(BYD)など、積極的な提携戦略を展開して技術補完と協業の枠組みを広げている。この多様なパートナーは対アップルの大きな武器で、棲み分けのポイントにもなる。
一方、アップルにとってはパートナーの存在が大きな悩みの種かもしれない。
電池やモーターは優れた製品を購入し、車体生産は委託する。IT企業のアップルには、餅は餅屋に任せる水平分業が合理的な事業モデルだろうが、人命を乗せる自動車は重大な製造責任を伴う。品質管理や不具合の原因究明・リコール(回収・無償修理)、事故の賠償などの負担の大きさはスマホの比ではない。その責任を分かち合い、十分な技術情報を共有できる協力関係は一朝一夕にはできないだろう。限定台数のニッチならともかく、トヨタの牙城に迫るにはアップルにも越えなければならない高い壁がある。
筆者:池田昇(産経新聞経済本部)