日本のメダルラッシュで沸いたパリ五輪も8月11日、終了。日本人選手を支えたのは、日本伝統のコメのお握り、パワーボールだった。
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「肉が少ない」「待ち時間が長い」など食事が話題になったパリ2024オリンピック (パリ五輪)。食事は選手の成績や試合の勝ち負けに大きく影響する。日本人選手に人気だったのが、日本のコメで作るお握りだった。だしをきかせた 特製お握り「パワーボール」の威力は?
日本人選手に「パワーボール」としてお握りを提供していたのは、パリ五輪の日本代表選手団「TEAM JAPAN」の強化支援事業として栄養サポートを行っている味の素株式会社(東京)だ。実際にサポート業務にあたった同社スポーツ栄養推進グループ「ビクトリープロジェクト®」の管理栄養士、寺田智子氏に聞いた。
――オリンピックでは、パワーボール(お握り)が人気だったんですね。どんなものですか?
寺田 サイズは普通のお握りの約半分の約50グラム、ピンポン玉より少し大きい位です。米に顆粒だし風味調味料 を混ぜ、だしのうま味をきかせました。試合会場でもパクッと一口で食べることができます。パリ五輪では、TEAM JAPANの様々な競技団体にパワーボールを提供しました。そのために、パワーボールの調理拠点を選手村近くに設けました。
――どのくらいの量を作りましたか?
寺田 早い日には朝3時半から日本のコメを炊き、多い時は1日300個以上を握りました。4個を1パックにして詰め、競技会場に運搬しました。
――だしの味は違ったのですか?
寺田 当社の和風の「ほんだし®かつおだし」の他、丸鶏がらスープ、味の素KKコンソメ などバラエティを設けました。
――お握りといえば、海苔や梅干しが定番ですが、そうした具材は使いましたか?
寺田 選手は極限状態でもあります。海苔や具材は消化に時間かかるため、あえて入れていません。だしだけで十分おいしい。一般家庭でも簡単に作れます。
◆「勝ち飯®」サポート
――競技によって食事のサポートの方法が違いますか?
寺田 例えばブレイキンですが、五輪前の合宿から体内時計をしっかり調整します。朝食、夕食をしっかりとり、ビタミンやミネラルが豊富な緑黄色野菜などもとってもらいます。また、1日15〜16回とバトルがあり、20〜40秒ほどの激しい踊りを繰り返します。陸上競技でいえば400m走に匹敵する心拍数の運動のため、エネルギーを切らさないことに注意します。
一方、水泳は1日に多くても2レースのため、エネルギーを切らさないというより試合に向けて蓄めて、試合で一気に力を爆発させられるよう、炭水化物、体重管理のためのタンパク質の摂取を心がけました。
――タンパク質でいえば、パリの選手村で、「肉が足らない」などの苦情が出て、前回の東京五輪の食事は良かったとコメントする選手がいるなど食事が話題でした。実際、どうでしたか?
寺田 選手村に入る直前まで選手は合宿していることが多い。選手村に入っても、選手村近くに日本オリンピック委員会(JOC)が設置し、味の素が運営協力している「JOC G-Road Station」(栄養サポート拠点)があり、こちらで日本のコメのご飯、そぼろなど の和風の軽食を提供しました。
寺田 「汁もの作戦」として、味噌汁などの汁ものをまずとってもらいました。選手は試合直前になればなるほど、緊張感が高まり、練習がハードになるため、胃腸にダメージがきます。食事のはじめに汁物をとることで食欲のスイッチを入れます。 「食事のおかげでいつも通りの気持ちで試合に臨めました」と声をかけられ、嬉しかったです。柔道の金メダリスト、阿部一二三選手は「TEAM JAPANのサポートは100点でした」とコメント下さいました。
◆柔道のバケツ作戦
――柔道はまた違うのですか?
寺田 柔道は階級制で試合の前日の計量に合わせて体重を減らします。私たちは「バケツ作戦」と呼び、バケツに例え、身体の大きさを変えず、つまり筋肉量を減らさず、体重を落としていくための食事計画を立てました 。計量後の回復期は、しっかりと炭水化物を食べてもらう。ただ、計量が終わったからといって何を食べてもよいわけではなく、計量後の体重増加も制限されています。体重をグラム単位で管理する必要があります。
ここでも計量直後に、だし湯を1杯飲んでもらっています。計量直後は脱水状態のため、すぐに食事すると消化不良を起こしてしまうことがあるからです。
試合に勝つためには食事も大きな力になる。そこでも、和食の基本であるご飯(パワーボール)、そしてだしのうま味が活躍していた。
8月29日からはパラリンピックが始まり、22競技549種目でメダルをかけた戦いの火ぶたが切られる。
著者:杉浦美香