治安当局に拘束されるロシアによるウクライナ侵攻に抗議する反戦デモの参加者
=2月26日、サンクトペテルブルク市内(AP)
~~
旧ソ連時代、共産党と政府の機関紙であるプラウダとイズベスチヤが大きな影響力を持っていた。ロシア語でプラウダは「真実」、イズベスチヤは「報道、ニュース」を意味する。しかし、両紙ともプロパガンダ的な内容で、事実を捻じ曲げることもあった。国民もわかっていて、「プラウダに真実なし、イズベスチヤにニュースなし」と陰口をたたいた。
もとより言論の自由はなかった。有名な小話がある。
「アメリカには言論の自由がある。ホワイトハウスの前で大統領はバカだと言っても逮捕されない」と胸を張る米国人に、ソ連人が「わが国も同じだ。赤の広場でアメリカの大統領はバカだと言っても捕まらない」。
論語の泰伯編に「民は由らしむべし、知らしむべからず」とある。プーチン(これからは呼び捨てにする)は「民衆は為政者に従わせればよく、詳細を説明する必要はない」と考えているのだろう。
ロシアは情報統制に血眼になっている。ウクライナへの軍事行動に関する報道で、公式発表に基づかないものは「虚偽情報」を流布したとして、最長で禁錮15年の罰則を設けた。公式発表こそ虚偽なのに、西側メディアの萎縮を狙った「報道の自由」への挑戦である。
しかし、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が発達した現代において、情報をコントロールできると考えること自体が時代錯誤だ。報道機関だけでなく、一人一人がメディアとなって発信する。フェイクニュースだと否定しても、ネット空間までは完全に支配できない。
ロシアの若者たちは国営メディアを信用せず、ネット情報で戦争の実相を知る。そして反戦デモに繰り出す。フェイスブックへのアクセスを遮断し、ツイッターを制限したのは、真実が広まることを恐れているからだ。
早坂隆さんの「新・世界の日本人ジョーク集」(中公新書ラクレ)にあったジョークをアレンジしてみた。
小学校を訪問したプーチンが「何か質問はあるかな?」と聞くと、アレクセイが手を挙げて、「ウクライナに軍隊を送ったのは侵略ではないのですか?」。すぐにチャイムが鳴って休憩になった。
休憩後、今度はニコライが3つ質問をした。「ウクライナは侵略ではないのですか? 30分早くチャイムが鳴ったのはなぜですか? アレクセイはどこへ行ったのですか?」
真実は独裁者を追い詰める。
◇
筆者:鹿間孝一(しかま・こういち)
昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースでは「浪速風」)を執筆した。
◇
2022年3月10日産経ニュースの記事を転載しています