~~
メガソーラー(大規模太陽光発電施設)が各地で増えている。だが個人の目に触れるのは身近な所に建設されたり、旅先で出会ったりするものに限られる。いわば点や線での認識だ。
捉えにくい全貌が、国立環境研究所の気候変動適応センターと生物・生態系環境研究センター(現・生物多様性領域)の合同研究で明らかになった。衛星画像などを基にソーラー施設の分布が、面的かつ動的に把握されたのだ。
日本の山野や平野部のどんな土地がどれほどの規模で利用されているのか。
増殖するメガソーラーの全体像に初めて研究の光が当てられた。
8725の施設を特定
研究チームは、国内に存在する0・5メガワット(500キロワット)以上の発電能力を持つソーラー施設について個々の範囲をデジタルデータ化した。
ソーラー施設の基本情報は「エレクトリカル・ジャパン」のウェブ上データベースを使い、衛星画像や航空写真を併用した結果、8725施設を特定できた。
0・5メガワットの施設は、パネルの性能にもよるが、おおむね50×100メートルほどの広さを持つ。環境中ではかなりの規模感だ。
一連の分析の結果、0・5メガワット以上のソーラー施設によって229平方キロの国土が使われていることが明らかになったという。
東京の山手線の内側の約3・6倍に当たる広さを占めるまでになっているのだ。数が多い0・5メガワット未満の施設分が加算されると総面積はさらに増す。
里山がなくなる
「再エネ発電施設の立地適正化」の必要性を感じた研究チームは、ソーラー施設の立地動態の解析にも取り組んだ。
まずは立地傾向。どのような土地にソーラー施設が造られてきたかを過去の衛星画像などと比べて調べたところ、以前は二次林や人工林、畑、草原、水田などだった所が多かった。
里山の自然に該当するエリアがソーラー施設の建設地に置き換わっていることが判明した。
また、鳥獣保護区や国立公園といった自然環境の重要性が認識されている所でも計35平方キロの土地が1027のソーラー施設によって利用されていた。
将来進出も予測
研究チームはソーラー施設の立地に関わる「自然条件」と「社会条件」を組み合わせた数理モデルを構築し、ソーラー施設の進出傾向を読み解き、予測する手法も開発した。
「自然条件」には、気象や地形のほか、地滑りの可能性や河川からの距離―といった被災リスクなどが含まれ、「社会条件」の方は、人口密度や地価、道路の密度が指標となっている。
施設の規模も進出に関係するので、モデルは、0・5~10メガワットの中規模施設と、それ以上の大規模施設に分けて構築されている。
今回の研究に携わった西廣淳さん(気候変動影響観測研究室長)は「太陽光発電については、そのメリットとデメリットの両面を明らかにして地域が選択できるようになっていくべきだと考えています」とのコメントを寄せてくれた。
◇
伝説のソロモン王の指環をはめ、日本昔話の聞き耳頭巾をかぶると野山の樹木や草花のいろいろな会話が聞こえてくる。
「ソーラーパネルはわれわれ、植物と似ているね」
「日当たりの良い場所を好む点は、そっくりだ」
「だから場所をめぐって競合が起きる。西日本には、ため池にソーラーパネルを浮かべる『水上ソーラー』も増えていて、池の動植物や生態系への影響が心配されているそうだよ」
「在来種の水鳥も嘆いているし、冬の渡り鳥の鴨(かも)たちも越冬場所が減って気の毒だね」
「太陽光を利用するソーラーパネルは、テクノロジーが生んだ『人造植物』かもしれない」
「生態学には極相という用語があって、植物群落が順番に交代して最後に落ち着く姿を意味するのだけれどパネル林が極相となった里山は『沈黙の春』の世界だね」
再エネ推進は2050年の脱炭素社会に向けた国の施策だが、生物多様性との両立が欠かせない。
ソーラー施設で樹木が伐採されたり、鳥や獣や虫たちがすみかを追われたりする事態はグリーン社会の理念に反し、アマゾンの森林破壊と同根だ。
立地に大面積を要する太陽光発電では、生態系の保全が大きな課題だ。
政府は太陽光発電のさらなる大量導入を計画しているが、コストの安さのみで進めると脱炭素が日本列島に災厄の種をまく。
筆者:長辻象平(産経新聞)
◇
2021年7月21日付産経新聞【ソロモンの頭巾】を転載しています