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太平洋戦争の激戦地として知られる南太平洋のソロモン諸島は今、中国の太平洋進出を象徴する島国だ。約4年前に台湾と断交して中国と国交を結び、軍事拠点化も警戒される。現地を訪ねると、中国の経済支援による発展への期待がある一方、中国との関係が「国の分断を招いた」との強い懸念も上がっていた。
ガダルカナル島にある首都ホニアラの国際空港と中心部をつなぐ幹線道路は、舗装はされていてもデコボコがひどい。車に乗って激しく揺られていると、市街地の外れに近代的な競技場の建設現場があった。11月に行われる南太平洋諸国の競技大会「パシフィックゲームズ」の会場だ。資金は中国の無償支援。周囲に高い建造物は少なく、その存在感は異彩を放つ。
「スタジアムができて、ソロモンに(著名サッカー選手の)ネイマールが誕生したら素晴らしい」。近くに住む男性、ウィリアム・ダグラスさんはスポーツ振興への期待を膨らませる。
ただ、「将来はどう管理するんだろう」と漏らす。人口の約23%が1日1・9ドル(約260円)未満で暮らす貧しい国が競技場を持続的に運営できるのかとの疑問だ。「懸念はその通りだ。計画はない。中国からの友好のプレゼントは国の負担になる」と語るのは、野党国会議員のピーター・ケニロレア氏。建設を決めたソガバレ首相を批判した。
中国人が「職を奪う」
ソロモンは1978年に英国から独立後、83年に外交関係を結んだ台湾から熱心な支援を受けた。ホニアラの国立病院など台湾支援で完成した施設は多い。だが、ソガバレ政権は2019年、「国益に基づく対外関係の見直し」を理由に台湾と断交し、中国と国交を樹立。経済支援をテコに台湾の孤立化を目指す中国の〝成功例〟となった。
ケニロレア氏は突然の転換の理由が不明だと憤る。中国の過剰な融資で途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」への心配もあるが、それ以上に大きな問題と感じるのは「外交関係の変更が国を分断したことだ」という。
国の「分断」の例が、21年11月の暴動だ。台湾との断交に反発した野党支持者や親台湾派が多いマライタ島出身者らが、ソガバレ政権の退陣を訴え、政権を支える中国への反発も拡大した。ホニアラの中華街が放火され、少なくとも市民3人が死亡した。
中華街には暴動の跡が残る。近くに住む女性のジョージナさんは、暴動に加わらなかったが「気持ちは理解できた」という。1970年代頃から中国系住民が増え、小売業を中心に地元の店の経営が圧迫されていると不満がくすぶっていた。「そんな不満に中国との国交が火をつけたのではないか」とジョージナさんは推察した。
ソロモンでは伝統的にガダルカナル島とマライタ島の間で反目がある。マライタ州のダニエル・スイダニ前知事は、中央政府の外交転換がマライタの住民を刺激したと説明する。マライタは台湾支援のインフラも多く、親台湾的な土壌があるため、「従来の対立を一層深めた」という。
中国への支持が浸透しているとはいえない。昨年の世論調査では、中国からの援助に肯定的な回答は23%で、否定的な回答は77%に達した。「台湾への親しみは全国的に深い。それでもソガバレ氏は中国を選んだんだ」。スイダニ氏は語気を強めた。
今年5月、ホニアラの国立病院では台湾支援を示す記念碑が突然撤去された。野党側は背後に中国の指示があると批判するが、理由は不明。ただ、病院を利用する女性は「台湾がつくったこの病院に愛着がある。記念碑が壊され、非常に憤っている」と語った。
「地政学が国を富ます」
国内に反発が根強くても、ソガバレ政権の中国接近は止まらない。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)による約160基の電波塔建設を決め、3月には中国企業と「1億ドル規模」の港湾改良事業の契約を締結した。
政権与党に近いガダルカナル州のフランシス・サデ知事は「独立以来貧しいこの国にとり、望ましいのはインフラが整備されることだ」と中国の進出を歓迎する。中国は意思決定も早いと称賛し、中国への警戒は「一部のメディアが言っているだけ」と切り捨てた。
ソロモンは米国とオーストラリアを結ぶ海路の要衝だ。米国はその中国傾斜を警戒し、2月に大使館を開設するなど関与を強化。サデ氏は「国の価値は中国と国交樹立以降、高まった。あなたのような記者も来るようになった」と笑い、米国や日本の支援にも期待を寄せた上でこう述べた。
「地政学が国を発展させるのだ」
筆者:森浩(産経新聞)
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■ソロモン諸島
ニューギニア島の東方に位置し、1千近い島や環礁で構成される島嶼(とうしょ)国。人口約72万人。1978年に英国から独立した。林業や漁業が主な産業で、輸出の7割近くが中国に集中している。南太平洋の中でも経済発展が遅れており、国連は途上国の中でも開発の遅れた「後発開発途上国」に認定している。ソガバレ現首相は2000年以来、4度首相を務めている。