中国の反発を恐れて輸出管理の基本を歪めるな

Computer chips are composed of semiconductors. (© Sankei by Tetsuji Goto)

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2月6日の本欄で、日本も国際協調の下で行おうとする半導体輸出規制の対象が中国であることを明確にすべきだと提言した後、多くの問い合わせをいただいた。輸出管理という一般になじみの薄い分野だけに説明を補いたい。

 

日本政府は中国を刺激することを避けたいので、中国だけが対象にならないよう処理しようとしているようだ。外為法上、従来あるワッセナー・アレンジメントの枠組みを利用し、その品目を追加するだけで済ませたいのだろう。同アレンジメントは「通常兵器の過剰な蓄積を防止する目的」で世界の全地域を対象に42か国が参加している。この枠組みの中で形式的には全地域を対象にして目立たないようにしつつ、実質的には中国向けだけを規制する、と政府は説明することが予想される。一見もっともらしいが、そこには問題が二つある。

 

 

全地域向け規制は規制目的から逸脱

 

第一に、以前から、外為法の規制は必要最小限であるべきで、国際合意に基づくべきものとされている。私が旧通産省時代の1990年代半ばに担当したワッセナー・アレンジメント導入の際にも、この点は日本政府において確認された。

 

今回の半導体規制は日本、米国、オランダの合意に基づくもので、米国は中国向けだけを規制している。仮に日本が全地域を対象にすれば、米国が規制していない地域向け、例えば台湾や韓国も含めて規制することになる。これでは日本の独自規制になってしまう。

 

それは既に述べた外為法の趣旨に反する。実質的に中国向けだけだと説明するのは、中国以外は恐らく包括許可制度など簡便な手続きで済ますので、全地域を対象にするのは形式だけと言うのだろう。しかしそれは実態論であって、法律論として全地域向け規制であることに変わりない。

 

なお、全地域向けの理由として、「迂回輸出を阻止するため」との説明も聞こえてくるが、これは外為法の制度を曲解している。外為法はあくまで対象国・地域を特定して規制するもので、迂回防止は別途行政的な対応となる。かつてのココム(対共産圏輸出統制委員会)もそうだった。

 

tech policy
オランダのルッテ首相(左)と会談するバイデン米大統領=17日、ワシントン(AP)

 

日本企業に不必要な負担のしわ寄せ

 

第二に、中国以外について米国企業は輸出を規制されていないのに、日本企業だけが規制されることになる。恐らく「包括許可制度で日本企業の負担を軽減するので問題ない」と説明するのだろうが、それは言い逃れだ。いくら簡便な手続きでも不必要な負担を企業に強いることに変わりない。

 

今回は関係企業が数社で少ないだろうが、米国は今後、量子、バイオなど新興技術についても規制を拡大することを検討している。今だけしのげばいいとの安易な考えではいけない。

 

規制をする際の基本は、目的を国民に明確にし、内容が必要最小限であることだ。中国の反発を避けることを優先するあまり、そのいずれも欠いた対応であってはならない。輸出管理政策を突き詰めることなく、安易な処理でその場しのぎをすべきではない。

 

筆者:細川昌彦(国基研企画委員・明星大学教授)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1010回(2023年2月9日)を転載しています

 

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