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国土交通省が手掛ける「全国道路・街路交通情勢調査」の一般交通量調査で、カメラと人工知能(AI)を用いて車両の交通量を調べる技術について法政大学の今井龍一教授、琉球大学の神谷大介准教授、関西大学の山本雄平助教、中畑光貴氏、田中成典教授、 大阪産業大学の姜文エン准教授、大阪電気通信大学の中原匡哉講師らの研究グループが報告している。従来の方法は精度が低く、車両の見落としが発生して正確な交通量をつかめなかったが、3つの課題を解消することで実用レベルまで引き上げられるという。この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。

 

約5年ごとに実施される全国道路・街路交通情勢調査は、道路の利用状況などを調べる一般交通量調査と、自動車が「どこからどこへ」移動するかを調べる自動車起終点調査に分けられる。同省は2021年、一般交通量調査で人手による観測を廃止して、道路管理用のCCTVカメラ(監視カメラ)の映像をAIで解析する手法を導入すると発表。道路沿いで車両を数える調査員のアルバイトがなくなり「AIに仕事を奪われる」などと話題を呼んだ。

 

だが、2021年度調査では「AIの導入を推進しているが、地方では人の力が必要」(国土交通省国土技術政策総合研究所)だったという。少なくとも、この時点において、AIが人間から完全に「仕事を奪う」事態になっていなかったようだ。
また、夜間や混雑する時間帯はコンピューターが車両を判別する精度が大きく下がる問題があった。特に夜間の20~22時の精度は、目視する場合の20~30%まで落ち込んでしまう。そのため同年度調査で、CCTVカメラで計測できない時間帯は、夜間の計測が可能で交通の傾向が似ている別の区画や、同じ区画の過去の調査結果を参考に推計したという。

 

働く世代の人口減少にともなって調査員の確保が難しくなると見られ、作業を効率化するシステムの構築が期待されている。今井教授らは、道路上の調査地点を通過した上下線の車両の数、速度、車種などをまとめた「断面交通量」と、交差点で右折、左折、直進する車両の動きなどを調べた「交差点交通量」の計測を自動化することを目標に研究を進めた。そして、通過台数の正確性、車種分類の誤認識、夜間の精度低下という3つの課題を解決する技術を開発した。

 

車両の検出漏れ(左)と車種の誤認識(右)の例

 

通過台数の正確性については、従来の方法だと調査地点の付近で車両の認識に失敗してしまう“検出漏れ“が起きて、正しく車両数を数えられないことが多かった。研究チームは映像内の物体を検出するAIモデル「YOLOv3」を採用。車両が調査地点を通過した前と後のフレーム(映像を構成する静止画の一枚一枚)に同じ特徴の車両が映っていれば同一車両であると見なした。調査対象を“点”で見落としてしまっても“線”で捉えるというわけだ。

 

車種分類の誤認識については、既存の手法では色や形状が似た車種を誤判定する傾向があると分かっていたので、画像を認識するAI技術「VGG19」を用いて分類の精度を向上させた。しかし、大阪市内の片側2車線を15分間撮影した映像で精度を検証したところ、車両の台数の精度は高かったものの車種の判別はうまくいかなかった。セダンタイプの車両やトラックは分類に成功したが、ワゴン車や軽トラックを大型車として誤分類してしまったのだ。

 

研究チームは、交通量調査を数年~数十年経験した調査員10人にヒアリングを実施。彼らが車両の形だけでなく車両の正面と側面の比率、フロントガラスなどのパーツが車両全体に対して占める割合、ナンバープレートの色などの特徴を参考に車種を分類していることを知り、部位を識別子とした手法の開発に取り組んだ。

 

さらに、さまざまな車両の正面を赤、上の面を緑、フロントガラスを青に塗るなどしたコンピューターグラフィックスを作成して各車種の特徴をAIに学習させた。そして前回同様の検証実験を行ったところ、小型車のセダンやバン、大型車のバスやトラックを正しく分類できて、実務で要求される「正解値との誤差10%」以内で車種ごとの通過台数をカウントできるようになったという。

 

部位を識別子とした車種分類の結果の例

 

夜間の精度低下の問題は、画像を変換するAI技術を活用して、夜の映像を疑似的な昼の映像に置き換えることで解決を試みた。部位を識別子とした車種分類技術と組み合わせるなどして検証実験をすると、変換した夜間(19時から翌朝7時まで)の映像から車両を検出する精度は、同地点で昼に撮影した映像と同じ水準だった。

 

夜間の照度は、休憩中の映画館と同程度の約10ルクスだった。映像を夜から昼に変換しない場合は精度が落ち、特に大型車の見落としが目立ったため、研究チームは同技術が大幅な精度向上に寄与すると結論づけた。また、 夜の映像を昼の映像に置き換える際、黒い車両の変換に失敗して車種を誤分類してしまう課題があることも判明した。

 

実験結果を受けて、これら3つの技術の有用性が確認できたと研究チームは判断した。今後は車種分類の精度向上を図り、既存研究を調査して技術開発に取り組むことで利用用途の拡大を目指すとしている。

 

筆者:野間健利(産経デジタル)

 

 

2023年4月27日産経デジタルiza【From Digital Life】を転載しています

 

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