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身体の健康と同時に心も満たされている状態を指す「ウェルビーイング(Well-being)」と「食」の関係が注目されている。2025年の国連の世界幸福度報告書(3月)に「食とウェルビーイング」の章も初登場する。経済協力開発機構(OECD)のワークショップで、パネリストを務めた味の素執行役常務(サステナビリティ・コミュニケーション担当)の森島千佳氏に「食」のウェルビーイングへの貢献について聞いた。
経済指標だけでは語れない
ローマで11月に開催された「ウェルビーイングと食」がテーマのワークショップで、どんな議論が行われましたか?
世界約150カ国・地域を対象に、世論調査を実施している米国の調査会社ギャラップと味の素が提携、質問項目に「調理の楽しさ」「誰かと一緒に食事する頻度」について入れてもらったところ、この2つが幸福度、ウェルビーイングに貢献することが確認されました。これを元に議論を深めました。
共食、料理を楽しむ意義が世界的にも認識されたのですね。
「共食」は、個人だけではなく、コミュニティや社会的なウェルビーイングにつながり、支援されているという実感、信頼関係、孤独や孤食の解決にもつながるなど社会的にも貢献することがわかりました。OECDもそこに着目しました。
OECDの方が「ウェルビーイングは国内総生産(GDP)だけでは語れない。非経済指標がとても大事だ」と言及し、「ソーシャルコネクション(社会的つながり)」がキーワードになりました。また、「一緒に実例を作れたらいい」とお声がけをいただき、手応えを感じました。
主観的ウェルビーイングを測る難しさ
なぜギャラップと提携されたのですか?
味の素は、「食を通じたウェルビーイングの実現」を重要事項(マテリアリティ)として取り組んでいます。「おいしいものをみんなと食べたら幸せに感じるよね」と誰もが思うけれども、食や栄養と健康の関係と違って、十分なエビデンスがありませんでした。このため、ギャラップと提携して大規模調査を行いました。結果は、食が主観的ウェルビーイングに貢献できることを世の中にオーソライズする着実な一歩になったと思ってます。
こうした成果は企業の経済価値にもつながりますか?
今回の「料理の楽しさ」「共食」がウェルビーイングに貢献するというエビデンスを商品開発やマーケティング活動に活用することで、生活者や社会の共感を得て経済的価値につなげていきたいと考えています。一企業を超える社会のウェルビーイングにも貢献できることに、OECDも注目してくれました。
美味しいは幸福につながる
調理を楽しんだ人も幸福度が上がるという結果だったんですね。
「調理を楽しんだ人」は「楽しまなかった人」と比べて、ウェルビーイングを実感する可能性が1.2倍高いことがわかりました。
日本の「幸福学」研究の第一人者、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏から「絵や音楽、芝居など美しいものを創作する人は、鑑賞する人より幸福度が高い。おいしいは漢字で『美味しい』と書くので、料理することは幸福につながるのではないか」とお聞きしたことがあります。能動的に美しいものを作り出すことが幸福につながることに納得しました。
世界幸福度報告書で「食」関連の章が登場
3月の国連の国際幸福デーに合わせて発表される世界幸福度ランキングでは、これまで北欧が上位を占める一方、日本は40位後半、2024年度は51位でした。これは変わりますか?
幸福は主観的なので測るのは難しい。日本を含め東洋は1番を目指しているだけではなく、バランスや調和も重んじる文化だと思います。価値観は地域によって異なり、幸福度の物差しも違います。世界幸福度報告書に今回、「食」の章が初めて入ることで、日本の順位がどう変わるのかはわかりませんが、食に関しての日本の貢献度は高いと思います。
栄養の見える化でリード
日本が「食とウェルビーイング」でどのように貢献していくのでしょうか?
日本は終戦後、貧しく栄養不足だったが、学校給食制度を設け、栄養士が献立を作り栄養を改善、今や世界一の長寿国です。献立ベースで栄養バランスを考え、見える化するなど、日本が貢献できることは多いと考えています。また、日本は小さな国ですが地域に適した食材を使った地域の食文化がしっかりあります。それもウェルビーイングに繋がると思います。
また、小学校で赤、黄、緑の3色に食品群を分けて栄養バランスを学ぶなど世界的にみても、栄養リテラシーが高い。日本にはウェルビーイングを牽引する要素がたくさんあると思います。
ポストSDGsの指標化へ
課題を教えてください。
3つあります。1つが、SDGsは2030年を目標にしていますが、ポストSDGsとして「ウェルビーイング」を国際的なアジェンダにしていくために他企業も一緒に活動しています。従業員のエンゲージメントという意味でも大切ですし、17あるSDGs目標の上位概念にもなり得ると思っています。課題は主観的なウェルビーイングをどう測るかです。その意味で、ギャラップの調査は重要です。
2つ目が日本のグローバルな牽引力です。日本は栄養リテラシーが高く、和食文化もあり、海外の食文化を日本風に融合させる懐の深さもあります。そのためもっとグローバルに貢献できることがあると考えています。
3つ目が一番難易度が高いですが、海外に比べて、日本は環境に配慮した商品を買うなどのエシカル(倫理的)消費意識が低い。エコバッグの持参率が世界一でも、最終的な消費者の行動が伴わないと、SDGsの取り組みが実を結ばない。そこには危機感もあります。何を幸せだと感じるかという、豊かさの質を考えていくことが重要だと思っています。
ギョウザが幸福度を上げる?
東京五輪で、海外の選手が選手村のギョウザを絶賛したのが話題になりましたが、OECDのワークショップでもギョウザが話題になったのですか?
司会の方が、議論の前のアイスブレイクで、ギョウザを共食、調理する歓びの例としてあげられました。水も油も使わず調理も簡単、みんなで食べられる。我が社の冷凍餃子は世界展開しています。日本で独自に発展したギョウザがグローバルで共食、作る歓びを満たせる料理になるのは嬉しく思います(笑)。
■森島千佳氏 1963年生まれ、滋賀県出身。86年、お茶の水女子大学卒業後、味の素入社。調味料などの加工商品の食品開発を担当。2015年より執行役員。23年4月から現職。
筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)
この記事は、Japan 2 Earth のロゴパートナーである味の素株式会社の協力により掲載しています。
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