冨嶽三十六景 凱風快晴 葛飾北斎 横大判錦絵
江戸時代 天保元~4年(1830~33)頃 大英博物館
1906,1220,0.525 © The Trustees of the British Museum
【全期間展示】
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葛飾北斎は、雑誌ライフが選んだ「この1000年で重要な功績を上げた100人」に唯一選ばれた日本人である。北斎は今でも世界中の人に影響を与えている。サントリー美術館で60年の歴史の中で初の北斎展が始まった。
北斎は、特定流派にとらわれない独自の鋭い観察眼と飛び抜けた画力を持つ。様々な文化人と交流し、研究し、学習し、考察して描かれた多くの作品群は、とても同一人物が描いたとは思えない。
今回の最大の特徴は、大英博物館が所蔵する状態の良い北斎作品の中で、版画ではなく肉筆画と呼ばれる一点物が生で見られることである。大英博物館とサントリー美術館双方のアートのプロたちがお互いにリスペクトして真のコラボレーション展を開催できたことは何より尊敬に値する。
6人の英国人コレクターがいたからこれらの作品が揃い、今回の展示が実現した。彼らのことは知らなかったが、図録には、彼らの努力や日本文化への思いが書かれている。英国人でありながら、他国の文化に対する理解は深く、作品を収集し、考察して伝承していく姿勢には、感銘を受ける。かつてロンドンで、教養ある英国人から日本文化について聞かれても返答できなかった、自らの惨めな経験を思い出した。
鑑賞した人たちには、こうした英国人たちの存在と業績を知り、ぜひ他分野でもこういう仕事ぶりを活かして欲しいと感じた。
世界的に有名な“The great wave”「神奈川沖浪裏」など、「冨嶽三十六景」シリーズの各作品も勿論あるが、大変良い状態の作品はより印象が強く、思わず食い入るように近づき長時間、立ち止まってしてしまうほどである。他の方に迷惑をかけないように注意をしなければいけない展覧会でもある。
館内のサインや演出等、いつもながらサントリー美術館ならではの、来場者を楽しませようとする姿勢には魅せられる。アートに親しもうという子供向けの企画もある。北斎という有名な題材と相まって、素敵な気持ちにさせてくれる時間である。
大英博物館の作品だけならロンドンでも見ることができるが、日英の北斎コラボ展示はここにしかない。6月12日までに六本木に行けるのなら、お出かけになる事をお勧めする。
筆者:渡辺幸裕