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1月11日にワシントンで行われた日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2+2)の共同発表には「日本の南西諸島を含む地域において、日米の施設の共同使用を拡大し、共同演習・訓練を増加させることにコミットした 」とある。日本の閣僚がコミットした以上、米側はもう使えると判断したのだろう。直後の13日に米海兵隊が沖縄県の下地島空港(宮古島市)を人道支援・災害救援目的の習熟飛行のため使用したい旨、沖縄県に空港使用届を提出したが、県は米側に使用自粛を求めた。1971年に当時の琉球政府の屋良朝苗主席が国と交わした「屋良覚書」が下地島空港を軍事目的で使用しないと定めていることに基づくもので、結果として2+2の約束は履行できなかった。
沖縄県が空港軍事利用を拒否
2+2の共同発表は昨年末に政府が決定した安保3文書を踏まえている。沖縄県による下地島空港の「軍事利用」拒否は、民間空港・港湾の利用拡大をうたった3文書の履行に背を向けることを意味する。
国家安全保障戦略では「総合的な防衛体制の強化の一環として、自衛隊・海上保安庁による国民保護への対応、平素の訓練、有事の際の展開等を目的とした円滑な利用・配備のため、自衛隊・海上保安庁のニーズに基づき、空港、港湾等の公共インフラの整備や機能を強化する政府横断的な仕組みを創設する」とある。
また国家防衛戦略でも「防衛上のニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な仕組みの下、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化するとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として、平素からの訓練を含めて使用するために、関係省庁間で調整する枠組みの構築等、必要な措置を講ずる」とある。
さらに防衛力整備計画でも「民間の空港・港湾施設等の利用拡大を図るとともに、南西地域の島嶼部等に部隊を迅速に展開するための訓練を強化し」とある。
安保3文書の前に公表された有識者会議の報告書にも「自衛隊・海上保安庁の配備・利用が想定される空港・港湾、国民保護のために必要な空港・港湾等を含め、有事を見越して、平時から政府全体で備えることが重要である」とあり、同報告書が出された直後に筆者は「この取り組みをどうやって実現していくかが今後の課題」と指摘した(国基研ろんだん2022年11月28日)。
住民退避に不可欠な3000m滑走路
台湾有事などの住民退避に使われる大型軍用機が離着陸可能な3000メートルの滑走路を持つ下地島空港を、半世紀以上前の覚書に縛られて使用できないことは沖縄県民にとっても極めて不幸だ。航空機よりも多くの避難民を輸送できる艦船の民間港湾への寄港も沖縄県は事実上拒否している(国基研ろんだん拙稿「沖縄に事実上入港できない海自艦」2022年11月14日)。
わが国を取り巻く安全保障環境は半世紀前と大きく変わった。空港・港湾の管理を国が直接行うことも含め、安保3文書や2+2で決めたことを履行していかなければ、共に戦う同盟国である米国の信頼をも失う。
筆者:太田文雄(国基研評議員兼企画委員)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1002回(2023年1月23日)を転載しています