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政府が計18の太平洋島嶼国・地域の首脳らを招き、島国としての共通課題を議論する第10回「太平洋・島サミット」は7月18日、首脳宣言と共同行動計画を発表し、閉幕した。
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天皇、皇后両陛下、サミット出席者とご歓談
天皇、皇后両陛下は17日、「第10回太平洋・島サミット」で来日した太平洋島嶼(とうしょ)国・地域の首脳夫妻ら23人を皇居・宮殿に招き、茶会を催された。秋篠宮さまと次女の佳子さまも陪席された。
皇后さまと佳子さまは着物姿で臨み、天皇陛下、秋篠宮さまとともに、笑顔で首脳夫妻らを迎えられた。
陛下は茶会の冒頭、英語でお言葉を述べられた。3年ごとに開催される同サミットが、前回は新型コロナウイルス禍でビデオ会議となったことに触れ、今回、6年ぶりに対面で開催されることを「誠に意義深く思います」とお述べに。さらに、会議を通じ、「日本と太平洋島嶼国・地域との友好親善と協力関係が更に発展していくことを期待しています」とされた。
茶会は立食形式で行われ、ジュースなどの飲み物や軽食が提供された。両陛下は終了後、出席者を宮殿の表玄関に当たる南車寄まで見送り、首脳夫妻らが乗り込んだバスが見えなくなるまで手を振られていた。
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防衛協力や海保機関との交流拡大
最終日の首脳宣言では自由、民主主義といった共通の価値や、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を確認。地域で影響力を強める中国を念頭に「世界のいかなる場所でも武力による威嚇、武力の行使、威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対する」と明記した。
東京電力福島第1原子力発電所の処理水に関しては、国際原子力機関(IAEA)を「原子力安全に関する権威」と位置付け、放出が国際安全基準に合致しているとしたIAEA報告書に言及。「科学的根拠に基づくことの重要性で一致した」と記した。
今後3年で7つの重点協力分野を設定し、日本が6500人以上の人的交流、人材育成の協力を行う方針を示した。島嶼国が重視する気候変動対策で、防災を柱とする「太平洋気候強靱化イニシアチブ」に基づく協力を進めるとした。
共同行動計画には、自衛隊の航空機や艦船の寄港を通じた防衛協力や海上保安機関の交流強化も盛り込んだ。
岸田文雄首相は共同記者発表で「日本と太平洋島嶼国・地域は法の支配、民主主義、力による一方的な現状変更の試みへの反対といった価値・原則を共有している」と強調。共同議長を務めたクック諸島のブラウン首相は首脳宣言を「私たちの共有する優先事項とコミットメントを反映したものだ」と評価し、日本との協力について「次のステージへと高みに至りたい」と語った。
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島嶼国との〝伴走〟強調 名指しせず対中牽制
議長を務めた岸田文雄首相は、災害対策支援を柱とする「太平洋気候強靱化イニシアチブ」を発表するなど、海面上昇のリスクに直面する島嶼国に寄り添う姿勢を強調した。首脳宣言も中国を牽制する内容を明記しつつ、名指しは控え、バランス外交に腐心する各国・地域との信頼関係の再構築に努めた。
「信頼、協力関係をさらなる高みに引き上げ、未来に向け、ともに歩む決意と具体的な道のりを示すことができた」
首相は18日、共同議長を務めたクック諸島のブラウン首相との共同記者発表に臨み、サミットの成果を強調した。
日本が共同行動計画で打ち出した「気候変動と災害」「資源と経済開発」など7つの重点協力分野は、太平洋島嶼国でつくる「太平洋諸島フォーラム」の「2050年戦略」の7本柱に対応したものだ。「戦略の実現に日本がともに取り組む」(外務省幹部)とのメッセージを込めた。
岸田首相が一体性と信頼の醸成に注力したのは、太平洋島嶼国・地域が、オーストラリアと日本を結ぶシーレーン上にあり、日本の戦略的な利益がかかる地域だからだ。念頭には、この地域で軍事、経済的な影響力を拡大する中国の存在がある。
ただ、米中の大国間でバランスに苦慮する島嶼国は、中国を気にして「多国間会議で中国の名前が出るのを嫌がる」(別の外務省幹部)傾向が強い。
このため首脳宣言は中国を意識しつつ、名指しせずに「平和で安定し繁栄したアジア太平洋地域」の確保に資さない「急速な軍備増強」への「懸念」を明記。また、共同行動計画は「全体の中でギラギラしない形」(同)で、安全保障の協力メニューを盛り込んだ。
日本としては、同志国軍を支援する枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」などを通じ、島嶼国の海洋安保能力を向上させ、シーレーンの安定化や「自由で開かれた国際秩序」の維持につなげたい考えだ。
「驚いたことに日本と島嶼国の関係を『戦略パートナーシップ』だと表現した首脳が複数いた。そうしたことを言える関係になってきた」
会議に出席した政府関係者は手応えを口にした。
筆者:原川貴郎(産経新聞)