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ソウルの在韓国日本大使館前に2011年、慰安婦像が設置されてから12月14日で10年を迎えた。この間に設置された像は韓国国外を含め160体に達し、日本への抗議活動をアピールする中心的存在として利用されてきた。一方、世界各地では設置の是非をめぐる住民間の衝突も発生、地域社会の「分断」を招いており、韓国国内でも像周辺は政治対立の舞台へと変質している。
「国家間の歴史的論争をめぐり、どちらか一方に肩入れする事態は避けたい」。ドイツ・ベルリン市ミッテ区のフォンダッセル区長は昨年10月、慰安婦像の設置許可をいったん取り消した際、こうコメントした。同区では韓国系市民団体などの激しい抗議活動を受け、その後再び像設置を認めるなど、方針が二転三転した。本来「無関係」の自治体が日韓の応酬に巻き込まれ、翻弄された形だ。
大使館前の像を設置した「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連、旧挺対(ていたい)協)によると、韓国内の慰安婦像がこの10年で144体に増加したほか、国外の像も16体に上る。13年7月、米西部カリフォルニア州のグレンデール市に設置されたのを皮切りに、欧米やアジアで拡散。多くのケースで住民を巻き込んだ論争に発展し、地域社会に禍根を残している。
一方、韓国国内では政府が問題解決への「努力」を約束した日本政府との慰安婦合意に世論が猛反発し、国民一丸となった運動が続いてきた。しかし、正義連による寄付金不正流用などが相次ぎ発覚した昨春以降、慰安婦像をめぐる環境に変化が生じている。
日本大使館前の慰安婦像周辺には保守系団体やユーチューバーが集合。像の設置や文在寅(ムン・ジェイン)政権の対日政策を批判する活動を本格化させた。30年近く大使館の前でデモを続けてきた正義連は、新型コロナウイルス防疫に伴う集会規制が解除された今年11月以降、従来のスペースを他団体に占拠され、十数メートル離れた像の見えない場所での活動を余儀なくされている。
12月8日昼、現場周辺では警察当局が警備を強化する中、国内の左派、右派団体が一斉に集会を開催する恒例の光景が展開された。「日本政府は謝罪しろ」「『反日』は病気だ」。相反する主張が大音量のスピーカーから飛び交い、耳をふさいだ通行人が付近を足早に通り過ぎていった。
筆者:時吉達也(産経新聞ソウル支局)