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Republican presidential candidate and former US President Donald Trump gestures as he stands with Chris LaCivita, Susie Wiles, Jason Miller, John Brabender and other campaign officials during his caucus night watch party in Des Moines, Iowa, US, January 15, 2024. (©REUTERS/Brian Snyder)

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今年の米大統領選挙で共和党候補としての指名をほぼ確実にしたトランプ前大統領が、防衛費をきちんと払わない北大西洋条約機構(NATO)同盟国への攻撃をロシアに促す趣旨の発言をして、物議を醸している。11月の本選挙で仮に当選すれば、日米同盟の在り方にも注文を付けてくる可能性が否定できず、日本としてもあらゆる事態を想定して対応を練っておく必要があるだろう。

 

 

危険な発言に欧州衝撃

 

トランプ氏の発言は2月10日、サウスカロライナ州の選挙集会で飛び出した。政権1期目のエピソードとして、あるNATO加盟国の大統領から防衛支出が不十分でもロシアから攻撃されれば米国は守ってくれるかと質問されたのに対し、「いや、守らない。それどころか(ロシアに)好き勝手なことをするよう促す」と回答した、と聴衆に語ったのだ。

 

このエピソードについては、事実だと証言する人がトランプ氏以外に現れず、自身の圧力で国内総生産(GDP)比2%の防衛費を達成する国が増えてきたことを自慢する作り話と解釈する向きもある。しかし、NATOの集団防衛規定を無視した上、ロシアに加盟国侵略を奨励するかのような発言は、欧州に大きな衝撃を与えた。NATOの抑止力を弱め、戦後の国際秩序を揺るがす危険な発言と批判されても仕方がない。

 

2期目のトランプ政権は対ウクライナ軍事援助を打ち切ることがほぼ確実で、NATOからも脱退しかねないと心配する観測者が多い。一方、アジアに関しては、トランプ政権は中国を最大の脅威と位置付けるので、中国に対抗するのに不可欠な日米同盟を直ちに壊すことはないだろうという楽観論を日本の元外務省高官から聞いたことがある。また、トランプ氏を政策面で支えるスタッフ集団は日本との軍事的連携に熱心だとも聞く。

 

しかし、なにしろ「予測不可能」が代名詞のトランプ氏である。1期目の実績に自信を持つ同氏が側近の進言にどこまで耳を傾けるか疑わしい。日本としては、最悪の事態を想定してトランプ政権復活に備えることが急務だろう。

 

米ネバダ州で集会に参加したトランプ前大統領=1月27日(ロイター)

 

日米安保体制強化の好機

 

トランプ政権は1期目に駐留米軍経費分担の3倍増の要求を非公式に日本に伝えてきた。韓国には5倍増を要求した。2期目にも日韓両国に同様な要求を突きつけ、拒否するなら米軍を撤退させると「取引」を持ち掛けてくる可能性がある。

 

トランプ氏はかねて日米安保条約の「片務性」すなわち米国のみが日本防衛義務を負うのは不公平で、これを変えねばならないと主張してきた。日本は安倍晋三政権で憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を限定的に容認したものの、集団的自衛権を行使できるのは日本国の存立が脅かされることなど厳しい条件が付いており、「双務性」からは遠い。

 

唯一の同盟国である米国をアジアに引き留めるため、日本は自助努力を強めるとともに、安保条約の双務性向上を本気で考えねばならなくなるかもしれない。むしろトランプ政権の復活可能性を奇貨として、安保体制の根本的な強化策を検討できるのではないか。

 

筆者:冨山泰(国基研企画委員兼研究員)

 

 

国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第1119回(2024年2月19日)を転載しています

 

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