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Chisel and wedge marks can still be seen inside the quarry. Awara City, Fukui Prefecture (©Sankei by Ryosuke Kawaguchi)
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草木をかき分け狭いトンネルをくぐると、そこには石造りの神殿を思わせる空間が広がっていた。苔むした岩肌、反響する水滴が落ちる音-。まるで異世界を旅しているような、不思議な感覚に包まれた。
いま、「関西の奥座敷」あわら温泉(福井県あわら市)にほど近い採石場跡地「宮谷(みやだに)石切場跡」が観光資源として注目されている。
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西欧の建築技術が日本に浸透し始めた明治20年頃から、セメントが普及する昭和20年代後半の廃坑まで石が切り出されていた。
「宮谷石」は加工しやすく耐火性があるため、家屋の基礎石に加え、火鉢やかまどなどにも使われる〝庶民の石〟だったという。
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石切場の内部は「間府(まぶ)」と呼ばれる、石を切り出した後の空間が6つ横穴でつながっている。幾つかの間府は地上に口を開け、夏場は木々の間をすり抜けて陽光が差し込む。光線が演出する非日常的な空間は、映画、CMの撮影や結婚式の前撮りなどに人気だ。
令和2年にガイド付きツアーを始めると客足は伸び、今年度は1千人に迫る勢いだという。来年3月には北陸新幹線が敦賀駅(同県敦賀市)まで延伸される。芦原(あわら)温泉駅にも新幹線が止まるようになるため、観光客はますます増えそうだ。
芦
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ツアーを運営するNPO法人・細呂木地区創成会の酒井敏雄会長(74)は「お客さんは秘境感を求めてやってくる。オーバーツーリズムにならないよう、保全と活用のバランスを取ることが今後の課題」と話す。
再びトンネルを通り、外へ出た。傾き始めた西日に思わず目を細める。さっきまでの静寂が噓のように、あたりは虫や鳥の声であふれていた。
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筆者:川口良介(産経新聞写真報道局)