G7首脳会合の記念撮影に臨む岸田首相(左端)ら
=3月24日、ブリュッセル(AP)
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トランプ前政権で大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)を務めた米政策研究機関ハドソン研究所のナディア・シャドロー上級研究員が産経新聞のインタビューに応じた。バイデン政権がウクライナへの軍事介入の選択肢を早々と否定するなど「しないこと」を明らかにする一方、抑止に重要な「能力と意思」を十分示さなかったことが、侵攻を抑止できなかった大きな原因だとの見方を示した。
米国の安全保障専門家の間では、西側諸国が2月24日の全面侵攻をなぜ抑止できなかったのかを検証する機運がある。
シャドロー氏は、抑止力は「一夜で築かれるものではなく長い期間をかけて構築されるものだ」と指摘。敵側の侵略を抑止する重大な要素に「能力と意思」を挙げ、敵側に耐え難い損害を与える軍事力とその能力を行使する決意が不可欠だとの見解を示した。
「少なくとも、敵側に『何をしないのか』を伝えてはならない」。シャドロー氏はこう語り、「これはしない、あれはしない、ということで、選択肢を限定するだけでなく、こちらの境界線は何かを相手に明確に伝えてしまうことになる」と述べた。抑止戦略上、一定の「曖昧さ」も不可欠だと強調した。
シャドロー氏は、米国が抑止力を弱めてしまった例として、①侵攻が「小規模」であれば制裁もそれに応じて軽いものとなるとバイデン大統領が1月の記者会見で示唆した②12月初めの段階で、いかなる状況でもウクライナに米軍が展開することはないと軍事介入を否定した③ウクライナに供与する兵器の種類を防衛目的か攻撃目的かで線引きした-ことなどを指摘。
「プーチン露大統領は侵攻する際に西側の選択肢は根本的に限定されたものになるという強い意識を持ったと思う」との見解を示した。
一方で、プーチン氏は戦術核兵器の使用を示唆して西側に恐怖を生み出し、効果的に介入を阻止してきたと指摘した。米国が抑止力を再建するためには「皮肉にも戦場でより強力な意思を示す必要があるかもしれない」と述べ、米国がいずれ軍事介入を余儀なくされる状況もありうるとした。
シャドロー氏は、中国の台湾侵攻を抑止するためには、侵攻が「中国の長期的な経済目標と世界での地位にもたらす代償」が受け入れがたいほど大きいと明確にする必要があると述べた。バイデン政権が近く発表する国家安全保障戦略の基本的概念「統合的抑止」については直接の評価を避けつつ、「敵が注視するのは力と意思だ。こちらの抑止の考え方が中国やロシア、イランの軍事・政治の指導者からどう受け止められるかを分析する必要がある」と述べた。
筆者:渡辺 浩生(産経新聞ワシントン支局長)
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■ナディア・シャドロー氏
米ハドソン研究所上級研究員。トランプ前政権の大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)を2018年まで務め、17年12月の国家安全保障戦略(NSS)を起草した。中露を米主導の国際秩序に挑戦する「修正主義勢力」と位置づけ、地域戦略では「インド太平洋」重視を打ち出す。米ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院(SAIS)で博士号。
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