衝撃的で厳しいが、生々しく説得力のある予測だと感じた。東アジアの安全保障問題を専門とするローレス元米国防副次官が雑誌『ウェッジ』12月号に寄せた論文「核保有国の北朝鮮と日本--INFオプション」のことである。
「米韓同盟は2030年までには終焉(しゅうえん)を迎えることになるだろう」
「率直に伝えざるを得ないことは、現在の米韓安全保障関係の枠組みが、中期的、長期的には維持不可能だということである」
ローレス氏はこう説き、日本に米国と共同で管理する中距離核戦力(INF)の導入を提言する。
論文を解説した谷口智彦前内閣官房参与が「国民が納得する線に落とし所を狙える類いの問題ではない。最も強い政治力をもつ首相の覚悟によって、必要ならば民の声を黙殺してでも実行すべき主題だろう」と記すように、容易に進められる話ではない。
だが、北朝鮮の核をめぐる6カ国協議でも米副団長を務めたローレス氏が示す極東地域の「新しい現実」をたどると、その重要性がよく理解できる。
ローレス氏は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権について分析する。
「国家と国民を北朝鮮の従属物として犠牲にしようとも南北和平を実現したいと考えている」
そして、米軍の速やかな撤退という事態は「米韓の同盟関係を不完全なものにすることこそが南北統一への近道と考える韓国の革新派政権によって引き起こされるだろう」とみる。
筆者は昨年8月8日付当欄で、文氏は北朝鮮の金日成主席(当時)が1980年に、南北統一の方策として提案した高麗民主連邦共和国の実現を目指していると書いた。また、繰り返し韓国はもはや自由主義陣営の一員とはいえず、文政権は本音では在韓米軍の撤退を歓迎しているとの見方を示してきた。やはり誰の目にもそう見えるのだろう。
そのうえでローレス氏は明確に指摘する。
「南北の朝鮮人は、米国が韓国との安全保障の枠組みから手を引けば、結束してこれまで以上に日本に対するあからさまな強硬姿勢を示すことになる」
「多くの韓国人は、革新派であっても保守派であっても同様に北朝鮮の核兵器開発による成果に対し、密(ひそ)かに敬意を抱いている」
そして、日本では超党派の日韓議員連盟をはじめ韓国との友好親善の夢を追う国会議員が少なくないが、ローレス氏は冷徹な分析を進める。
「朝鮮半島における二つの国家がどのような形で統一あるいは連合しようとも、日本に対する憎しみという共通認識が、両者を結束させる重要なファクターとなることは必至である」
確かに、政治制度も生活レベルも風俗も異なる両者の計7500万人以上の国民が一致結束するには、いつもの「反日」が便利で有効なのは間違いない。ローレス氏はさらに踏み込む。
「INFシステムが重要なのは、朝鮮人にとって日本が永遠の宿敵であることは今後も変わらないと見込まれるからである」
日本国内の議論では、なかなか言いにくいことを明確に指摘した忠言だといえよう。ミサイル阻止の方策にしても、現状では菅義偉首相は「敵基地攻撃能力」や「打撃力」についてすら明言を避けている。
12月5日に閉会した臨時国会でも、中国や朝鮮半島の深刻な情勢をめぐる議論はあまり見当たらなかった。目をそらしさえすれば、厳しい国際情勢などないも同然だと言わんばかりな国会のありさまだった。
筆者:阿比留瑠比(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
◇
2020年12月3日付産経新聞【阿比留瑠比の極言御免】を転載しています