Rinca Tojo the female VTuber

©Art Stone Entertainment

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千葉県警が交通ルール啓発動画に起用したバーチャルユーチューバ―(Vチューバ―)の女性キャラクターについて、全国フェミニスト議員連盟が「性的だ」と問題視し、削除される事態に発展した。近年、公的機関による〝萌(も)え系美少女キャラ〟の起用に対しては同様の批判が相次ぎ、取り消しに至るケースも少なくない。キャラクターを制作した芸能事務所の女性は議連の批判に疑義を呈しており、表現の自由をめぐる論争が巻き起こっている。

 

 

期間終了前に動画削除

 

「なりたい自分になれるのがVチューバー。性的なものは意図していない。見た目だけで判断されるのは納得がいかないし、それこそ女性蔑視ではないか」

 

渦中のVチューバー「戸定梨香(とじょう・りんか)」を制作した芸能事務所(千葉県松戸市)の板倉節子代表取締役は、産経新聞の取材にこう主張した。自身のツイッターでも同趣旨の持論を展開している。

 

Vチューバーは、動画を配信する人の動作や表情などに合わせて動くコンピューターグラフィックス(CG)のキャラクター。戸定梨香は昨年4月、新型コロナウイルス下のエンターテインメントを模索していた同事務所から、松戸市のご当地アイドルとしてデビューした。

 

交通安全の啓発動画は県警松戸署の依頼を受けて同事務所が制作し、今年7月に公開。赤と白のセーラー服のような衣装を着た戸定梨香が、自転車に乗った際の安全確認や保険加入の重要性を説明し、「ルールを守って正しく利用しましょう」と呼びかける内容だ。

 

ところが9月上旬、県警は抗議を受けたことだけ事務所側に説明し、掲載期間終了前に動画を削除した。板倉さんは間接的に議連が抗議したことを知ったという。

 

議連は県警などに宛てた8月26日付抗議書で「体を動かす度に大きな胸が揺れる」「極端なミニスカートで、女子中高生だと印象付けて、性的対象物として強調している」と問題視。板倉さんは「何度読んでも意味がわからない」と困惑を隠さない。

 

 

「言ったもん勝ち」

 

美少女キャラをめぐっては近年、起用した公的機関への批判が相次いでいる。

 

平成26年に三重県志摩市が、海女(あま)を目指す17歳という設定で白い衣装をまとう「碧志摩(あおしま)メグ」をPRキャラに公認した際は、「胸や太ももを強調しすぎだ」などとインターネットで炎上騒ぎになり、同市が公認を取り消した。

 

30年に自衛隊滋賀地方協力本部がアニメ「ストライクウィッチーズ」のキャラを起用した自衛官募集ポスターも矛先を向けられた。丈の短い制服姿の女性3人がポーズを取る構図に、下半身を過度に露出しているといった批判が集中。ポスター取り下げに追い込まれた。

 

消費者団体「エンターテイメント表現の自由の会」によると、最近は性的対象として批判を受ける描写が広範囲に及び、件数も増加傾向にあるという。

 

坂井崇俊代表は戸定梨香の一件について「一度公開されたものが外部の批判を受けて非公開になったことが問題だ」と指摘。公的機関による撤回が相次いでいる実態には「『言ったもん勝ち』になり、クリエイターの萎縮につながる」と懸念を示す。

 

板倉さんは議連の抗議に対し「まずは話し合うことが第一歩。なぜそれがなかったのか」と疑問を呈し、「問題が起きてスルーしていたら、同じことが繰り返される」と危機感を募らせる。

 

 

6万4千超の署名

 

ネット上では板倉さんの思いに賛同する動きが広がっている。有志が9月10日以降、議連に抗議し、批判の根拠を説明するよう求める署名を集め、2週間余りで6万4千筆を超えた。

 

議連は公式サイトに「当該動画の掲載も削除も、千葉県警によるもの」と掲載している。共同代表の増田薫・松戸市議は取材に「議連が圧力をかけたという話は勘違いで、ゆがめられている。抗議は自由で、責任を取るべきは警察のほう」と反論し、議連の見解を今後表明する意向を示した。

 

自治体広報に詳しい東海大の河井孝仁(たかよし)教授は「公的機関に求められるのは、説明責任。広報の目的を事前に明確にしておくことが必要だ」と指摘する。千葉県警の対応については「なんとなく面白そうだと思ってVチューバーを起用し、抗議を受けたからやめたというのであれば、制作者に失礼だ」と語った。

 

県警に戸定梨香起用の狙いをただすと、「コロナ下の広報活動を検討している中で、地域に根差した活動をしている芸能プロダクションに協力してもらった」と説明。動画削除の理由は「交通安全を啓発する本来の目的と異なる意図が伝わることが懸念されたため」と答えた。

 

今回の騒動を受け、秋以降に予定された県警と板倉さんの事務所の共同企画は白紙となった。何ともやり切れない。

 

筆者:尾崎豪一(産経新聞)

 

 

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