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愛媛県が開発したオリジナル品種の花「さくらひめ」から分離した酵母を使った日本酒「さくらひめシリーズ」が注目を浴びている。県酒造組合と県、東京農業大学による共同研究の末、取り出した酵母4種類を使って昨年、県内22酒造がそれぞれ新商品を発売。そのうち水口酒造(松山市)は今年、世界的に権威ある日本酒コンテストで金賞を受賞した。他の事業者の商品も好評といい、県酒造組合の越智浩理事長は「愛媛でしか作れない酒を、県内の酒造が一丸となって国内外に発信していきたい」と話す。
華やかでフルーティー
「さくらひめで世界に通じる日本酒が作れたことが大変うれしい」
今年、「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)の純米吟醸酒部門で金賞を受賞した水口酒造の水口皓介専務は受賞を喜ぶ。
受賞した日本酒は「仁喜多津 純米吟醸酒さくらひめ酵母」。県酒造組合などが令和4年に分離・培養に成功した愛媛県のオリジナル酵母で、県産の酒造好適米「しずく媛」と石鎚山系の伏流水で醸す完全愛媛メードの日本酒。青リンゴを思わせる華やかな香りとフルーティーな飲み口が特徴という。
昨年3月、「さくらひめシリーズ」として他の酒造と同時発売すると、1500本(720ミリリットル換算)が夏ごろに完売。同年冬には仕込み量を倍増し、今年春に3千本分を販売したが、6月のIWC金賞受賞を受けて注文が殺到し、同月中に完売した。
水口専務は「酵母のクセも分かってきて次はよりおいしい酒になるはず。さらに仕込み量を増やし、販路を広げていきたい」と話す。
産学官連携で醸す
さくらひめ酵母の誕生は4年前、新型コロナウイルス流行による政府の緊急事態宣言がきっかけだった。飲食店などでの酒類提供が制限され、県内の酒造各社は厳しい経営環境に。もともと、国内の日本酒消費量も減少傾向にあるなか、県酒造組合ではアフターコロナを見据えて国内外に発信できる新たなブランドの開発に着手することになった。
こだわったのは「テロワール」。もともと「土地」を意味するフランス語で、気候を含めた土地の個性にその地方の風土や文化を加えた「地域性」のある食品の製造環境を表す。越智理事長は「フランス・シャンパーニュ地方の『シャンパン』のように、愛媛でしか作れない日本酒を作りたかった」と振り返る。
愛媛ならではの個性をいかに生み出すか-。着目したのは日本酒造りに欠かせない酵母だった。越智理事長が交流を持つ東京農大の研究室に相談、県食品産業研究センターの協力も得て、県オリジナル品種の花「さくらひめ」を素材に研究を重ね、令和4年に4種類の酵母の分離・培養に成功した。
世界に「さくらひめ」発信
4種の酵母は、果実を感じさせる華やかな香りの「トロピカル」、すっきりと柔らかな酒質の「クリア」、香りと酸味と程よい甘みが調和する「ウェルバランス」、ふくよかな香りとさわやかな酸味が特徴の「リッチ」と名付けた。
同年夏に県内の酒造を集め、さくらひめ酵母で試験醸造した日本酒を紹介。県内で日本酒を作る34事業者のうち22事業者が参画を表明し「さくらひめ」を冠したシリーズとして展開することになった。
5年3月に一斉発売すると、県の協力も得て国内のほか台湾などでPR活動を実施。どの銘柄も販売は好調で、今年度は23酒造が35銘柄を発売した。今年7月に東京で開かれた日本酒フェアでは各事業者がそれぞれの「さくらひめ」をアピールした。今後タイやシンガポールでのPRも計画している。
越智理事長は「1つの素材から4つの酵母が見つかるのは奇跡に近い。それぞれに個性がありどんな料理でも合う銘柄が見つかる」と強調。「各酒造が一丸となって愛媛の酒として打ち出すことが大きな訴求力になる。日本はもちろん国外にも『さくらひめ』を広く発信していきたい」としている。
筆者:前川康二(産経新聞)