新型コロナウイルス感染症対策に追われた通常国会は6月17日に閉会した。安倍晋三首相は残る1年3カ月の任期内に何を目指すのか。コロナ禍で国際情勢が激変し、日本でも第2波襲来の恐れが否定できない不安定な状況下で、それをどう実現させていく考えなのか-。
「政治とは、与えられた条件の中で最善を尽くすことだ。もちろん、あと1年余の任期でも憲法改正はあきらめない。かえって1年の方が怖いものはない」
安倍首相は国会閉会後、コロナ禍で世界が一変した今、何がやりたいかを周囲に問われてこう答えた。政治の世界では、最善を尽くしても到達できないこともあるが、少なくとも自衛隊を憲法に明記したいとの思いに変わりはない。
7カ月前の昨年11月、通算在職日数が歴代第1位となる際はこう述べていた。
「拉致問題、北方領土問題、デフレ脱却と任期中にやるべき課題はたくさんあるが、国内で完結するのは憲法改正だ」
その後のコロナ感染症の世界的大流行で、外交交渉は大きく滞った。世界経済もリーマン・ショック時を上回る打撃を受け、日経平均株価は高水準で推移するものの、アベノミクスにも当然影響が出る。成長戦略も練り直しが迫られよう。
「インバウンド(訪日外国人客)が途絶えたのは非常に残念だが、観光被害は世界中がそうだから」
安倍首相がそう語るように、目標達成が遠のいてみえるものもある。特に「相手のある話」(首相)の外交分野はそうだろう。
「北方領土問題は行けるところまでは頑張るが…」
こう周囲に述べる安倍首相も、任期内に北方領土問題を解決してロシアと平和条約を結ぶことは困難だとみているのだろう。
それでは、拉致問題の見通しはどうなのか。北朝鮮がより内向きとなっている現在、停滞している日朝交渉をどう進展させるのか。安倍首相は語っている。
「確かに(憲法上)、武力をもって彼らを攻撃するという選択肢がない以上、できることは限界がある。だが、(世界の激変期は)この膠着(こうちゃく)状態がどう動くかは分からない。事態を動かすには、今のように何か変化があった方がいい」
安倍首相は常々、国会などで「あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動していきたい」と表明してきた。その通り、チャンスを確実に手繰り寄せ、拉致問題を大きく前進させてもらいたい。
筆者:阿比留瑠比(産経新聞)