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大阪府市が進める統合型リゾート施設(IR)整備計画への参画を目指すオリックスと米MGMリゾーツ・インターナショナルの企業連合が7月、府市に総額1兆円規模の事業計画を提出したことをめぐり、関西の経済界から歓迎の声が上がっている。投資額は府市の想定を上回る規模で、2025年大阪・関西万博以後の関西経済の持続的な発展につながると期待が高いためだ。万博の開催地でIRの整備も予定される大阪湾岸部は長年、開発失敗の連続だったが、万博と合わせて経済成長のエンジンに変貌するか注目が集まる。
歓迎する経済界
「この時代に1兆円など立派なものだ。関係者で知恵を出し、素晴らしいIRを建設してほしい」(関西経済連合会の松本正義会長)「疑いなく関西、日本にとって歓迎すべき話」(関西経済同友会の古市健代表幹事)「関西の躍動を後押ししてくれる」(同会の生駒京子代表幹事)
オリックス・MGM連合の1兆円投資計画をめぐり、関西財界からは手放しで歓迎する声が相次いだ。投資計画には、大阪府市がIRの段階的な整備を容認していることから、「1兆円がどれくらいの期間で投資されるか分からず、経済効果が見通しにくい」(専門家)との懸念もあった。
ただ、この点について、大阪府の吉村洋文知事は7月21日の会見で「段階的ではなく、開業当初から1兆円の投資規模になる」と断言。展示場やホテルの面積は開業後に拡張するため、最終的には1兆円をさらに上回る投資になるとの見方も示した。計画の概要は、府市がIR運営事業者を正式に決定する9月にも発表される見通しだ。
観光業の象徴的存在に
1兆円投資が関西経済に与える影響について、日本総合研究所の若林厚仁・関西経済研究センター長は「切り札になる」と強い期待を寄せる。
若林氏は「これまで関西経済の軸は電機や電子部品産業だったが、今後は訪日外国人客(インバウンド)を中心とした観光業にシフトする」と述べ、「IRはその推進役になる」と予想する。
1兆円の投資額については「シンガポールのIR施設『マリーナベイ・サンズ』と『リゾートワールド・セントーサ』を足したぐらいの規模」と指摘し、「大阪の施設は、関西の観光業の象徴的な存在になりうる」と強調する。
大阪のIRをめぐっては当初、大阪府市は2025年の万博開催に先駆けて開業することで、誘客やインフラ整備での相乗効果を狙った。しかし、新型コロナウイルス禍でMGMなど海外のIR事業者の経営が急激に悪化したことで、IRの開業時期が大幅に遅れることとなった。
ただ、この点についてアジア太平洋研究所(APIR)の稲田義久研究統括は「万博に合わせて開業するのは、準備期間が短く無理があった。まず万博を成功させ、その後に持続的にIRへの投資が行われるということは、決して悪いことではない」と語る。
湾岸開発失敗の過去
万博の開催地でIRの整備も予定される大阪湾岸部ではこれまで、行政が進めた「大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)」の建設計画などが相次ぎ破綻し、2008年の開催を目指した五輪招致も失敗。民間企業も2000年代以降、プラズマテレビや液晶テレビの巨大工場を集積させ「パネルベイ」などと呼ばれたが、円高や国際的な価格競争に敗れ操業停止や売却が相次ぎ、今は見る影もない。
日本総研の若林氏は、大阪湾岸でのプロジェクトがたびたび失敗した背景には「バブル崩壊やブームが過ぎ去った後に建設されるなど、時流を読み間違えたことがある」としたうえで、「IRの開業は7~8年後になる見通しで、同様の失敗を繰り返さない保証はない」と分析する。
ただ、IRへの誘客で重要な要素となる国際的な認知度という点では、大阪は1999年の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)開催や万博、また近年のインバウンドブームを背景に「かつての大阪とは状況が大きく異なる」(APIRの稲田氏)とも指摘される。
事業の採算性に厳格とされる米企業が巨額投資を決めたことも「リスクを踏まえてでも採算が取れる」(同氏)との判断があったからとみられており、このことも関西経済界の期待を高める要因となっている。
筆者:黒川信雄(産経新聞)