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シーラ・クリフさんの着物愛には圧倒させられました。一つ一つのコーディネートに“遊び”があり、彼女のコレクションは皆、着物から小物に至るまで新しい命をもらって生き生きとしているように見えました。“着物”と聞くと一見、高級である、手間がかかる、と思われがちですが、シーラ・クリフさんの新著“Kimono Evolution”はそんなイメージを見事に覆してくれる一冊です。
本書を読んでいくと、まず彼女の繊細且つ斬新なアイディアの数々に驚かされます。例えば、着物を着る際に基本とされる腰紐は、丈を調節するために使用するアイテムであり本来見えないように結ぶものと教えられてきましたが、そこに敢えてポップな色の“飾り腰紐”を加えたり、帯締めと指輪をリメイクした手作り帯留めを使用したりと、従来の着物の概念を変えるような素晴らしいアイディアに溢れていました。
私が以前教わった着物の概念とは、着方に様々なルールがある“格式の高い物”という印象でした。しかし、もしかするとその考えは着物が普段着として着られていた時代の概念とは全く異なった、現代に作り上げられたイメージなのかもしれません。江戸時代の浮世絵や日本画を見ていると、皆好きなように自由に着物を着ています。シーラ・クリフさんのコーディネートは正に自由そのものです。本のタイトルに“Kimono Evolution”とありますが、彼女の様々なコーディネートに見られる何にも囚われない力強さが、新しい着物の可能性を広げていくのではないでしょうか。
近年、利便性が重視され着物を着る人が減ってきていますが、それは着物には決まった“型”があり面倒、時間がかかるうえに新鮮さもないと思われているからだと感じます。しかし、シーラクリフさんの着物にはその“型”がありません。常に自分の好きなコーディネートを探求し、着物の進化を楽しんでいる彼女のライフスタイルは個性を重要視する現代の幅広い層に刺さるのではないかと思います。
また、その斬新さはもちろんのこと、彼女の膨大かつユニークな着物コレクションにも驚かされました。ひょっこり雀柄のキュートな黒留袖、“藤の花”と“水車”が描かれた友禅染の夏振袖や他にも見たことのないような珍しい着物ばかりで、彼女のクローゼットはまるで美術館のようだと感じました。
私も個人的に着物を趣味で着用することがありますが、集め始めた頃は、洋服とは全く異なった着物の柄や色の合わせ方に大変悩まされました。当時、私の周りにはお手本がなく、インターネットを探しても参考にできるものが少なかったのです。そこで、浮世絵の展覧会に足を運んでみたり、竹久夢二に関する本『夢二画集 春の巻』(別冊太陽)、『竹久夢二写真館「女」』(著書:栗田勇)などを買って読むことや、リサイクル着物屋さんを巡るなど、試行錯誤しながらコーディネートのアイディアをかき集めました。結果として、自分の中で満足のいくコーディネートをいくつか組むことはできたのですが、たったいくつかのコーディネートを考えることだけでも容易ではありませんでした。そう思うと尚のこと、シーラクリフさんの着物に対する並々ならぬ情熱と飽くなき探究心が自ずと伝わってきて、私も “型”に囚われない着物コーディネートに挑戦してみたいと思うようになりました。
“Kimono Evolution”は、これから日常的に着物を着てみたい、或いは既に着物が身近にあるという人にも新鮮に感じることのできる一冊です。シーラクリフさんのカラフルでポップな世界を一度覗けば、今後の着物ライフをより豊かに過ごせるに違いないでしょう。
筆者:内藤春(女優)