サハリン2から到着したLNGタンカー
=2009年4月、千葉県袖ケ浦市沖(共同)
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都市ガスの主成分のメタンと同じ品質の合成メタンを水素と二酸化炭素(CO2)から製造する「メタネーション」に大手ガス会社などが本格的に力を入れ始めている。製造時にCO2を使用することで都市ガスを使う際に出るCO2を相殺でき、しかも都市ガス用の既存インフラが利用可能なため、CO2削減の切り札として期待は大きいが、液化天然ガス(LNG)よりも製造コストが大幅に高いなどの課題も残る。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、エネルギーの安定供給確保が重要な課題となる中、早期実用化に向けた官民の取り組みに期待が集まる。
「通常の都市ガスと変わらずに使えます」。横浜市鶴見区の東京ガスの横浜テクノステーションで製造された合成メタンを点火させると、同社の小笠原慶メタネーション推進グループマネージャーはこう強調した。炎の色や勢いなどは隣の都市ガスと遜色ない。
令和4年3月から稼働している装置からは、1時間に約12・5立方メートルの合成メタンの製造が可能。東京ガスではこの施設での実証実験の成果を踏まえ、より大規模な設備の導入と製造能力拡大を目指す。12年には同社が顧客向けに販売する都市ガスの1%にあたる約8000万立方メートルを合成メタンに切り替える考えだ。
政府が推進する脱炭素化の取り組みは、太陽光や洋上風力発電の普及促進といった再生可能エネルギーの導入拡大、火力発電におけるアンモニア混焼などさまざまな施策が並ぶ。だが、導入拡大について新たに巨額の投資が必要なものは多い。政府が5月に決定したクリーンエネルギー戦略の中間整理では「今後10年間で約150兆円の投資が必要」と指摘している。
そうした中で、メタネーションは今もLNG用に使用している貯蔵タンクや専用タンカー、家庭向けの都市ガス用の配管など既存の設備を使えるため、投資コストを抑える利点がある。原材料となる水素とCO2を安価でかつ安定的に調達できるようになれば、国内でも合成メタンの普及が一気に進むことが期待されている。
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導入拡大に向けた最大の課題はコストだ。
安価な再エネ由来の安定的な電力の確保と技術革新で一定程度の水素製造コストが下がったとしても、「令和12年ごろの製造コストと現状のLNG価格には3倍ぐらいの価格差がある」(同社の矢加部久孝執行役員水素・カーボンマネジメント技術戦略部長)と指摘される。
同社も海外で大規模な太陽光発電(メガソーラー)や風力発電などによる安価な電源の開発などを進める必要性を模索している。
さらに、現状では水素製造に必要な電力が主にLNGを燃やす火力発電由来の「グレー水素」や石炭火力発電由来の「ブラウン水素」であることも問題だ。
火力発電由来の水素であれば、CO2排出量を実質ゼロにすることは極めて難しい。
メタネーションの普及には合成メタンの製造コスト削減に加え、原料となる水素を製造する際にCO2排出量をゼロにする再エネ由来の「グリーン水素」にする仕組みも必要となっている。
メタネーションは東京ガスだけではなく、大阪ガスや東邦ガスなど大手ガス各社もそれぞれ実証実験などを行い導入に向けた研究を行っている。大手各社で導入に向けて一定のめどが立てば地方の中小ガス事業者への横展開も期待されるため、大手各社の実証実験の行方が普及に向けて大きなカギとなりそうだ。
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各社の実証事業やその後の社会実装に向けた導入促進策には、エネルギー政策を所管する経済産業省を中心とした政府の支援も欠かせない。
経産省は合成メタンの研究開発や普及促進で官民が連携する官民協議会を3年6月に設立した。協議会には大手ガス会社に加え、三菱商事、日本製鉄、日本郵船など約20社と、業界団体や研究機関も参加。政府目標の12年に都市ガスの1%を合成メタンに置き換え、2050(令和32)年までに合成メタンの価格を現在のLNGと同水準に引き下げることを目指し、5月までに8回の議論を重ねてきた。
5月17日の協議会では委員から「(メタネーションの推進にあたっては)全ての関係者がメリットを感じる仕組みが必要」「(補助金などの支援を)政策的にきちんと位置付けることが重要」などの指摘がなされた。
現状の合成メタンの品質については「家庭向けはほぼ問題ない」(東京ガスの小笠原氏)と話す。今後は、家庭用よりも使用量や熱量が大きい、工業用の供給で機器への影響を検証する考えだ。
一方、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、エネルギー価格は高騰している。加えて、6月30日にロシアのプーチン大統領が日本の商社が参画する石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営会社をロシアが新たに設立する新会社に移管する大統領令に署名。日本が保有する権益の行方は不透明感が増している。
日本が輸入するLNGの約9%がロシア産でその大半はサハリン2からだ。その輸入が止まれば、燃料価格の高騰に加え、電力需給逼迫(ひっぱく)対策の〝頼みの綱〟となっている火力発電所も燃料不足による停止に追い込まれかねない。
化石燃料の中で比較的CO2排出量が少ないLNGの需要は根強く、世界的な争奪戦になっている。合成メタンでの代替が可能になれば、大半を海外からの輸入に頼るLNGへの依存度の低減にもつながる。サハリン2の問題も踏まえ、官民が連携し、合成メタンの早期実用化に向けて取り組むことが急務となっている。
筆者:永田岳彦(産経新聞経済部)
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2022年7月11日付産経新聞【経済インサイド】を転載しています
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