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日米の鉄鋼業界の大型再編が動き出す。日本製鉄は米鉄鋼大手USスチールと同社を買収し、完全子会社化することで12月18日に合意。来年の買収完了を目指して必要な手続きを進める。ただ、約141億ドル(約2兆円)という日鉄の巨額買収負担への懸念や、買収への全米鉄鋼労働組合(USW)の反対もあり、再編が実現するかは予断を許さない。
「日本の成長力を取り戻す」
日鉄の橋本英二社長は12月19日、オンラインで記者会見し、USスチールを買収する狙いについて、世界の大きな潮流は新しい経済安全保障だと指摘し、その中で米国に強い拠点を構えることで地球規模のニーズに応える「グローバルネットワークを完成させたい。ひいては日本の成長力を取り戻す」と述べた。
同社はこれまで成長市場のインドでの事業拡大や、中国に対抗する東南アジアの拠点づくりに取り組んできた。これに続き「1億トン近くの需要を誇る先進国ではもっとも大きな市場で、これからさらに成長が見込める」(橋本氏)米国が地盤のUSスチールを加えることで、国際競争力を一段と強化する考えだ。
世界鉄鋼協会によると、2022年に日鉄は約4400万トンの粗鋼を生産し、企業別で世界4位。約1400万トンのUSスチールは27位で、単純に足し合わせると世界3位に浮上する。
USスチールは米国内に鉄鉱石の鉱山も保有し、原料から生産までを一貫して手がけている。石炭を使う製造方式の高炉に比べて、スクラップを活用することで鉄鋼の生産時の二酸化炭素(CO2)排出量を抑えることができる電炉に強みがあり、付加価値の高い高級鋼板や電気自動車(EV)向けに需要拡大が見込まれる電磁鋼板などの分野で高い技術力があるという。電炉は、水素利用と並ぶ鉄鋼生産のCO2対策の柱で、日鉄はUSスチール買収で脱炭素の取り組みも加速する。
経済安保で米国に強い拠点
また、橋本氏は「経済安全保障のリーダーは米国だ」とし、ハイテク部材などをめぐる中国との競争なども念頭に、買収により技術開発や原料・商品のサプライチェーン(供給網)強化で日米が連携する意義も強調した。
ただ、USスチール株式の15日の終値に対して約4割の上乗せ幅を付ける買収には高額との見方があり、19日の東京株式市場では財務負担への懸念から日鉄の株価が一時、前日終値に比べて約6%の大幅下落となる場面もあった。
また、USスチールの従業員らが加盟するUSWは18日に今回の買収への反対を表明。米国の規制当局に買収を慎重に審査するよう求めた。
橋本氏は会見で「丁寧な対話を続ければ(労組の)理解を得られる」との見通しを示したが、買収の実現には株主総会や関係する各国当局の承認を得る高いハードルが待ち受けている。
筆者:池田昇(産経新聞)