6434人が犠牲となった阪神大震災から30年となった。
Great Hanshin Earthquake 30 year anniversary

「犠牲者追悼のつどい」でろうそくに火をともす参加者ら=1月16日午後、兵庫県伊丹市の昆陽池公園

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6434人が犠牲となった阪神大震災から30年となった。

神戸市長田区で被災した詩人、安水稔和(としかず)は震災から10年間の詩や散文を集めた『十年歌』にこう綴(つづ)っている。

「私たちは無残な出来事に心震え悲しみ憤るが、すべて我が事とはできない。しかしながら、わずかでも関わりを見つけ出して繫(つな)がることができる」「さらにずっと向こうとも繫がることができるのだ」

全国から約137万人が駆けつけて「ボランティア元年」と呼ばれた30年前の輪は、今も生きている。「私たちが生き延びるためには、わずかなことに気づき、しっかりと『一人の他者と結ばれあうこと』」という安水の言葉をかみしめたい。

万全の「備え」が命守る

絶えず記憶を新たにし、教訓を生かす。兵庫県明石市にある県立明石公園の震災碑にはこんな安水の詩が刻まれている。

<これはいつかあったこと。/これはいつかあること。/だからよく記憶すること。/だから繰り返し記憶すること。/このさき/わたしたちが生きのびるために。>

神戸市の復興再開発が昨秋に完了し、発災から29年という長い時間がかかった復興関連の事業は全て終わった。高層ビル群が整備された現在の街並みからは、火の海となった30年前を想像するのは難しい。

精道小学校の追悼式典で献花し、手を合わせる児童ら=1月17日午前、兵庫県芦屋市(甘利慈撮影)

だが、どれほど時が経過しても、1月17日は忘れてはならない大切な日である。公募で選ばれた兵庫の震災30年事業の合言葉は「うすれない記憶はない。つなぐべき決意がある。」。

鎮魂の祈りを捧げつつ、被災地の思いを共有したい。

午前5時46分という早朝の発災だった。戦後最大の都市型震災は、巨大地震に対する都市の無防備さと脆弱(ぜいじゃく)さをあらわにした。ビルが倒壊し、高速道路は横倒しとなり、24万9180棟もの住宅が全半壊した。

地震に付随して起きた通電火災や倒壊した建物による圧死で多くの命が失われた。大切な人が助けを求める声に応えられない慟哭(どうこく)が、あちこちの被災地で響きわたった。

当時の村山富市政権や自治体の対応は後手に回った。自衛隊が災害派遣のため本格出動できたのは4時間以上が経過した午前10時過ぎだった。神戸市内で自衛隊の人命救助が始まったのは午後1時過ぎだ。その後、初動の反省から首相官邸に危機管理センターを設置し、自衛隊も自主的派遣が可能になった。

大きな犠牲の上に、社会はたくさんの教訓を得た。「備え」の重要性が認識され、国は平成12年の建築基準法改正で耐震基準を強化した。家具の固定や備蓄品の用意、実践的な防災訓練も全国各地に広がった。

阪神大震災で倒壊した家からの家財道具持ち出しに追われる被災家族。震災後の混乱で生命保険の解約・失効が相次いだ=1995年2月、兵庫県西宮市

だが、その後の災害からは、いまなお残る課題が浮き彫りになっている。

避難環境の改善を急げ

1年前の元日に起きた能登半島地震では、石川県輪島市の観光名所「朝市通り」で火災が発生した。5日後に鎮火するまでに約240棟を焼き、焼失面積は約5万平方メートルに及んだ。

総務省消防庁が令和5年に行った全国調査で、延焼しやすい木造住宅密集地で優先的に消火設備を導入している消防本部はわずか9%だった。対策の充実とともに、住民による初期消火力の向上も図る必要がある。

避難所の体育館床に段ボールを敷き、毛布にくるまって雑魚寝するという劣悪な避難環境も30年前と同じままだ。

避難生活の疲労やストレスで体調を崩し死亡する「災害関連死」の概念は阪神大震災で生まれた。死者6434人のうち約900人だったとされるが、能登半島地震では直接死を上回る287人を数えている。

石破茂首相は昨秋の所信表明演説で、避難所での1人当たりの居住スペースや飲料水、トイレなどで満たすべき国際基準を「発災後早急に、全ての避難所で満たすことができるよう事前防災を進める」と約束した。確実に実行してもらいたい。

わが国は災害大国である。北海道の千島海溝、西日本の南海トラフ、首都直下地震も高い確率で発生が想定されている。

いずれも甚大な被害が予測されるが、政府の中央防災会議は早期避難や耐震化率向上などで人的被害を8割減らせると試算している。「備え」の大切さや避難行動の意義を社会全体で再認識しなければならない。それが災害に強い社会を作るために欠かせぬ道筋である。

2025年1月17日付産経新聞【主張】を転載しています

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