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東京ゲームショウで公開された「プレイステーション5プロ 30周年アニバーサリー リミテッドエディション」=9月26日、千葉市(酒井真大撮影)

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ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)」が1994年12月3日に発売されてから30年が経った。PSは現行機である「5」までの歴史の中で、当初は玩具として扱われていたゲーム機を、性能アップやインターネットとの融合により、大人も楽しめる娯楽に進化させた。だが当初、ゲーム業界では新興のPSが成功できるか、懐疑的な見方が強かったという。ゲームメディア「ファミ通」によると、歴代PSで販売本数の多いゲームソフト上位10タイトルのうち、「ファイナルファンタジー(FF)」と「ドラゴンクエスト」が計7本を占めることから、PSが大きなシェアを奪った原点は、それまではいずれも任天堂のゲーム機向けに独占的に販売されていた両シリーズを〝獲得〟できたことにあるといえそうだ。

3DとCD-ROMを武器に

「お止めなさい。100%失敗しますよ」。初代から3までのPS開発を主導した久夛良木(くたらぎ)健・元ソニー副社長は今年9月の東京ゲームショウ基調講演で、初代PS発売前、ソフトメーカー関係者に開発を止めるように〝助言〟されたと打ち明けた。93年に100社近いメーカーを訪れ、新しいゲーム機の構想を説明して意見交換したときのことで、ほとんどの会社が「塩対応」だったという。久夛良木氏は「ソニー社内ですら誰も成功すると思っていなかった」と言い切る。

しかし、久夛良木氏の信念が揺らぐことはなかった。「テクノロジーは20~30年、すごい勢いで進化する。それを皆で引っ張っていくという熱い思いがあった」と強調した。

東京ゲームショウで講演するプレイステーションの〝父〟久夛良木健氏(右)=千葉市、9月26日(高橋寛次撮影)

関係者もゲームの未来に大きな希望を持てなかった当時の状況を打ち破る〝武器〟としたのが、3D(三次元)を表現する描画性能の高さと、記録媒体(ソフト)に容量の大きいCD-ROMを採用したことだ。発売前の技術説明会では、立体的に表現された恐竜が歩き、咆哮するなどの映像を見て、参加したメーカー関係者の席は静まり返ったという。久夛良木氏らは「受けなかったか」と落胆したが、後に、関係者は映像の質の高さに衝撃を受け、言葉も出なかったことを知る。久夛良木氏は「翌日から電話が鳴りっ放しになった」と振り返る。

そして94年12月。発売日前日に関係者を招いた「前夜祭」を開催した後、東京・秋葉原で久夛良木氏が見たのは、真冬の寒さの中、量販店の前にできた長蛇の列だった。「感動した。これからロックコンサートが始まるぞ!という感じだった」。

「映画のようなゲーム」志向

PS発売から1年2カ月後の96年2月、ゲーム業界に〝激震〟が起きた。スクウェアがソニー子会社と提携し、「FF7」をPS向けに発売すると発表したのだ。FFは、主人公が成長していく「ロールプレイングゲーム」というジャンルで、ドラクエと並ぶ人気シリーズ。87年の第1作から「6」まで、同シリーズは任天堂のゲーム機向けに提供されてきた。

なぜ、スクウェアは〝電撃移籍〟に踏み切ったのか。任天堂が圧倒的な影響力を持つソフトの流通で、スクウェアがコンビニでの販売という新しい手法を模索するなど、両社の関係性の変化を指摘する声もある。しかし、決め手になったのはやはり、久夛良木氏がこだわったPSの性能の高さだったと思われる。「映画のようなゲームを創りたい」。当時のゲーム業界に詳しい関係者によると、同社幹部はFFを念頭にこう話していたという。

97年1月に発売されたFF7は、物語の舞台となる星に蓄えられたエネルギーを吸い上げて消費する巨大企業があり、その活動に反抗する組織が爆破テロを起こそうとするーという場面から始まる。SFとファンタジーを融合させた物語性に加え、要所で映画的な表現を採用したことも高く評価され、大ヒットした。

1997年に初代プレイステーション向けに発売され、大ヒットした「ファイナルファンタジー7」© SQUARE ENIX CHARACTER DESIGN : TETSUYA NOMURA

現在は一つのゲームをさまざまなゲーム機やパソコン向けに投入することが一般的になったが、当時は一つのゲーム機向けに独占供給されるのが主流で、人気ソフトの帰趨がゲーム機普及に与える影響も大きかった。エニックスのドラクエも、それまで任天堂のゲーム機向けに投入されてきたが、2000年に発売された「ドラゴンクエスト7 エデンの戦士たち」はPS向けに発売された。また、スクウェアとエニックスは03年に経営統合し、スクウェア・エニックスが誕生した。

シリーズ屈指の傑作とされるFF7には、今もファンが多い。15年6月、米ロサンゼルスのイベントでリメーク版の開発を示すイメージ映像が流されると、会場が大歓声に包まれるという一幕もあった。

「最先端」取り込み進化

ゲーム・エンタメ総合情報サイト「ファミ通ドットコム」の三代川(みよかわ)正編集長は、「初代PSでは、CD-ROMを採用したことが大きかった。それまでのROMカセットに比べて大容量化が進み、ゲームの内容が一段と豊かなものになった。メーカーからみてもコストが下がったほか、機動的な生産が可能になり、FF7のPSでの発売にもつながった」と指摘。「PS2ではDVD、PS3ではブルーレイとネットワーク。ソニーが最先端のものをゲーム機に取り込んでいったことも、PSの可能性を大きく広げた」と話した。

筆者:高橋寛次(産経新聞)

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