19年連続日本一に選ばれた足立美術館の枯山水庭
=島根県安来市
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横山大観らの近代日本画コレクションで知られる足立美術館(島根県安来市)が今年3月、米国の日本庭園専門誌のランキングで日本一に選ばれた。1位は19年連続となる。背後の山を「借景」に、人工の滝を組み込んだ庭園は自然と技術の融和が特徴。19年連続日本一を支えるのは、創設者、足立全康(ぜんこう)氏(1899~1990年)の「庭園もまた一幅の絵画である」という信念だという。美しい庭園を守り続ける「足立メソッド」を追った。
名だたる名園抑え
借景の山々を含めた庭園の総面積が約16万5千平方メートルを誇る足立美術館は、JR安来駅からバスで約20分の郊外にある。3月下旬に訪問すると、山陰の長い冬を越えた庭の木々が春の日差しを浴びて輝いていた。
「日本一に選ばれるために庭園を管理しているわけではありませんが、記録が途絶えずほっとしました」。同館広報係長の菅野(かんの)綾夏さん(31)はいう。
専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」は2003年から日本庭園のトップ50を毎年発表。日本国内の約千の候補地から世界各国の専門家が庭園の質、建物との調和、利用者へのホスピタリティーなどを基準に選考する。同館は、桂離宮(京都市)など名だたる名園を抑え、第1回から1位の座を譲っていない。
同館の日本庭園は、昭和43年に地元の実業家、足立全康が造園に着手した。当初は著名な造園家に設計を依頼していたものの、「自分の理想の庭園をつくりたい」と、後に自ら庭師を指揮。約15年をかけ現在の庭園の基本形をつくり上げた。枯山水庭や苔(こけ)庭、白砂青松庭、横山大観の絵をイメージした人工の滝「亀鶴の滝」などで構成される。
365日朝から手入れ
足立美術館には、美術館としては珍しく庭園部が置かれ、専属の庭師8人が在籍する。
庭園部長の小林伸彦さん(59)は生前の全康から薫陶を受けた一人。「開館前は落ち葉一つも残さない。全康さんの、一つ一つの積み重ねが大事だという言葉を守っている」
同館は昭和45年に開館してから一日も休館したことがない。365日、喫茶部門など庭園部以外の職員も含めて庭を竹ぼうきで清めることから一日が始まる。庭師は午前7時半に出勤し、開館前の手入れを1時間。開館中も、庭木の剪定(せんてい)や植え替えなどで休む間もない。
庭園部は最年長の小林さんを筆頭に、20代まで幅広い年代で庭の手入れにあたる。庭師は経験者やコンクールの入賞者らエリートをスカウトするのではなく、地元の農林高校から採用し、いちから「足立メソッド」を学んでもらう。
菅野さんは「この庭園に合うように技術を身に付けてもらうのです」と話す。例えば、庭園内に約800本ある赤松は、手前の木はつみ取る量を多くし、奥になるとできるだけ多く残し、借景の山々に自然に溶け込む手法を取り入れているという。
「神管理」が評価
また、同館近くの数カ所にある仮植場には赤松だけでも約400本育てられており、庭園の松が大きくなりすぎると植え替えられる。毎朝、足立隆則館長が写真を撮り、チェックする。植物が大きくなりすぎると、庭の石が小さく見えるため、バランスが崩れていないかの見極めも連日欠かさないという。
これらの取り組みが専門誌では「神管理」と評価され、19年連続日本一につながっている。
「足立メソッド」とは何か。菅野さんによると「館員一丸で、『全康マインド』に基づいた美意識を持つこと」だという。そのために剪定方法の工夫や、仮植場があるという。
今年5年目の庭師、山本裕介さん(22)は、「どの方向から見られてもいいように。すみずみまできれいにするところまで日本一です」と誇る。
ランキングで知名度が上がった効果もあり、60万人を超えていた入館者は、コロナ禍により20万人超まで落ち込んだ。ただ、「全康マインド」は今も引き継がれている。小林さんは言う。「全康さんは『一人でも何百人でも、庭を見て感動してもらうのが仕事だ』と話していた。私たちは、自然を生かした庭園が素晴らしいと思っており、それを守るために一生懸命やるだけです」
筆者:藤原由梨(産経新聞)