国産「持続可能な代替航空燃料(SAF)」商用化の有志団体設立を発表し、
撮影に応じる(右から)日本航空の赤坂祐二社長、全日本空輸の平子裕志社長ら
=3月2日、羽田空港(福田涼太郎撮影)
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飛行機や空港の脱炭素化を進める改正航空法などが6月3日の参院本会議で全会一致により可決、成立した。航空会社や空港ごとの計画を国が認定し、廃油や藻類などを原料とする次世代燃料「SAF」の導入を支援する。国内では伊藤忠商事が今月から日本の空港で初めて海外航空会社にSAFを供給するほか、他の商社や航空会社なども事業拡大を狙っている。二酸化炭素(CO2)排出量が他の輸送手段より多い航空業界にとって、SAFは頼みの綱ともいえる存在だ。日本は対応が遅れていたが、企業の取り組み強化で巻き返しの機運が高まってきた。
「日本におけるSAF供給体制の確立に向け非常に大きなマイルストーン(節目)になる」
伊藤忠が5月27日に行ったオンライン記者会見。エネルギー・化学品カンパニーの山田哲也エネルギー部門長は新事業の意義をそう強調した。
同社は提携先のネステ(フィンランド)が製造したSAFを日本へ輸入。従来のジェット燃料に混ぜ、成田空港でアラブ首長国連邦(UAE)のエティハド航空に供給する。2020年10月から全日本空輸には供給していたが、海外航空会社は初めてだ。
SAFを巡っては、三菱商事とENEOSも4月に事業化の検討を発表。ENEOSの製造技術や販売網と、三菱商事の原料調達やマーケティングに関するノウハウを持ち寄り、国内生産だけでなく原料開発やサプライチェーン(供給網)の構築も目指す。
商社では、三井物産もSAF製造を手掛ける米ランザテックに出資。ランザテックは全日空などにSAFを供給する計画だ。また、丸紅は日本航空などと出資する米フルクラムの技術を使って国内生産に乗り出すことを検討している。
一方、異色の企業も市場参入を狙う。バイオベンチャーのユーグレナは1日、SAFを燃料に使ったヘリコプターの飛行試験に国内で初めて成功した。同社は3年後をめどに、ミドリムシの油などからSAFを量産する考えだ。
SAFは持続可能な航空燃料とも呼ばれる。原油由来のジェット燃料から置き換えると、燃料製造から航空機の運航に至るトータルのCO2排出量を大幅に減らすことができる。
ただ、航空輸送アクショングループ(ATAG)によると、50年に温暖化ガス排出実質ゼロを達成するには世界で5億5千万キロリットルのSAFが必要。これに対し20年の供給量は6・3万キロリットルにすぎず、全航空燃料の1%にも満たないのが実情だ。
27年には世界の航空会社に対し、SAFの利用などによるCO2排出削減が義務化される予定だ。SAFの国際的な争奪戦が始まると予想される中、伊藤忠の山田氏は供給体制を早急に整えなければ「海外航空会社が日本に就航できなくなる」と指摘する。
日本政府も危機感を強めており、30年までに日本の航空会社が使う航空燃料の10%をSAFに置き換える方針。4月には16社が参加する官民協議会も立ち上がった。コスト低減などの課題はあるが、事業化の動きは加速しそうだ。
筆者:井田通人(産経新聞)