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ゲームの腕前を競う「eスポーツ」のプレイに、ブドウ糖を多く含むラムネ菓子が良い影響を与えることが西日本工業大学などの研究で明らかになった。認知能力に負荷がかかるゲーム中に、脳がリラックスしつつも集中している「ゾーン」の状態を維持するのに、ブドウ糖摂取が有効である可能性が示されたという。この研究に関する論文はデジタル領域の学術論文を掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
eスポーツは体を動かす従来のスポーツと変わらない盛り上がりをみせている。対戦格闘ゲームや、チーム制アクションゲームとRPGの要素を併せ持つMOBA、銃で撃ち合うシューターなどさまざまなジャンルでファンを獲得。オランダの調査会社、Newzooはeスポーツ関連市場の規模は2024年に16億ドルを超えると予測している。
世界的なゲーム関連企業が居並ぶ日本でもeスポーツは勢いづいている。8月上旬に米ラスベガスで行われた世界最大規模の対戦格闘ゲーム大会「EVO 2022」では、「ストリートファイターV チャンピオンエディション」(カプコン)の部門で日本から参加したカワノ選手が初優勝を果たした。来年3月には同大会の日本版「EVO Japan」が東京ビッグサイトで開催される予定だ。
eスポーツの人気と市場の拡大は学術界にとっては新たな研究領域の登場を意味する。ゲームと認知機能の関係を調べる研究が増加しているほか、栄養とeスポーツに関する研究では、エナジードリンクの摂取がプレイ中の注意力と反応時間に影響するかどうかを調査したものもあるという。
こうした中、西日本工業大学工学部総合システム工学科講師の古門良亮氏、九州産業大学人間科学部准教授の萩原悟一氏、森永製菓株式会社研究所の稲垣宏之氏らの研究チームはブドウ糖の摂取が認知機能に与える影響を調査。さらにゲーム中の脳波を測定することで、ブドウ糖摂取と集中力の関係についても分析した。
調査では男子大学生20人を10人ずつのグループに分け、一方には1個当たり約26グラムのブドウ糖を含むラムネ菓子を食べさせ、もう一方には見た目や味ではラムネ菓子と区別がつかないブドウ糖抜きの代替品を食べさせた。いずれのチームも脳波計を装着してレースゲーム「グランツーリスモSPORT」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)を25分間プレイした後に、約3分かけてタイムを計測。その前後で、数字や文字を選んで認知機能を計測する2種類のトレイルメイキングテスト(TMT)を受けた。
数あるゲームジャンルの中からレースゲームを選んだ理由は、車を操作しながら他の車との位置関係を把握することで「持続的注意力や認知的柔軟性、抑制制御などの認知能力が必要とされる」ためだという。研究チームはこれらの結果をもとに、ゲーム前後のTMTの成績を比較。さらにゲーム前とゲーム中の脳波の違いも分析した。
TMTに関しては、2種類のテストのうち一方で、ラムネ菓子を食べたグループの成績が有意に向上した。研究チームはブドウ糖の摂取が「情報処理速度や持続的注意などの認知機能の向上に有効である可能性が示された」としている。
また脳波の分析では、リラックスしている度合の指標となる「アルファ波」、緊張や集中の指標となる「ベータ波」、リラックスしつつ集中した状態のときに現れる脳波の周波数帯「SMR波」の3つに着目した。
ラムネ菓子グループと代替品グループのどちらもゲーム開始から10分後と20分後の時点では、脳波の変化に有意な差は認められなかった。しかし、レースゲームを一通りプレイしてタイム計測に臨んだ25~28分後、ラムネ菓子を食べたグループの脳波は、アルファ波とSMR波の特徴を示す度合が高くなった。SMR波の特徴が見られるときには「ゾーン」や「フロー」などと呼ばれる、仕事やスポーツに没頭した状態になりやすいとされているため、eスポーツにおいても心身が有利な状態だと考えられる。
研究チームは脳波の変化について「ブドウ糖摂取によって、認知能力への負荷が強いゲームの最中にリラックスと集中が両立する状態が効果的に維持されたことを示唆している」と分析。今回の調査で使われたラムネ菓子のブドウ糖の量が、理想的な脳の活動を維持するために適切なブドウ糖の量とされる25グラムに近かったことも、脳波の変化に良い影響を与えた可能性があるとしている。
さらに研究チームは、仕事などのeスポーツ以外の行動でもブドウ糖の効果を検証することで有用な知見を得られるだろうと強調。一方、TMTテストの変化にはラムネ菓子だけではなく、ゲームで遊ぶこと自体が認知能力を向上させた可能性があることも指摘。また今回の研究ではゲームの内容やプレイヤーのスキルの違いについてはデータを取得していないことや、脳活動のメカニズムには未解明の部分が多いことに触れ、さらなる研究が望まれるとした。
筆者:野間健利(産経デジタル)
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※産経デジタルfrom Digital Lifeの記事を転載しています