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どこまで強くなるのだろうか。衆目と期待を集める若者が、また一つ、「史上最年少」の勲章を手に入れた。
将棋の藤井聡太棋聖である。棋王戦五番勝負で11連覇の懸かった渡辺明棋王(名人)からタイトルを奪取し、史上2人目の六冠を成し遂げた。
20歳8カ月での達成は、平成6年12月に六冠となった羽生善治九段の24歳2カ月を、大幅に塗り替える最年少記録だ。
賛美の言葉が追い付かないほど、藤井棋聖の強さは群を抜いている。昨年2月に五冠となって以降、5度のタイトル防衛戦で迎え撃った相手は、棋聖戦の永瀬拓矢王座や王将戦の羽生九段らいずれも指折りの強豪だ。その挑戦を全て退け、令和4年度の勝率は8割台を維持した。
NHK杯テレビ将棋トーナメントなど、全棋士や上位棋士が参加する4つの一般棋戦も全て優勝した。同一年度では史上初の快挙である。
その一方で、勝敗を超えた将棋の醍醐味(だいごみ)を教えてもくれた。王将戦では、羽生九段と互いの読み筋を笑顔で披露する感想戦が動画配信され、交流サイト(SNS)で話題になった。令和と平成を代表する「知性」の、旺盛な探究心と情熱がにじむ名場面だった。
藤井棋聖は「羽生九段の強さを感じる場面も多かった」という。ファン待望の「黄金カード」を制して、棋士としての幅をさらに広げたのではないか。
残るは名人、王座の2冠だ。4月からの名人戦七番勝負では、渡辺名人への挑戦を決めている。王座への挑戦も実現すれば、今秋の「八冠」もあり得るが、道のりは険しい。名人戦と並行して叡王戦があり、夏場は棋聖と王位の防衛戦も続く。棋力に加え、気力と体力の充実が不可欠だろう。
六冠達成の翌日、藤井棋聖は「立場に見合う将棋を指せるように努めていきたい」と述べつつ、タイトル数よりも、局面の俯瞰(ふかん)など残された課題に心を砕きたいと語った。八冠を待望する声に惑わされることなく、自身の望む道を究めてほしい。
棋王戦では決め手を逃したことに気づき、対局中にうなだれる姿が見られた。藤井棋聖も完璧ではなく、他の棋士に現状を打開するチャンスがないわけではない。八冠への挑戦を見守ると同時に、番狂わせも大いに期待したい。
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2023年3月22日付産経新聞【主張】を転載しています