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衆院和歌山1区補欠選挙応援のため岸田文雄首相が訪れていた和歌山市・雑賀崎漁港の街頭演説会場で、演説直前に円筒形の物体が投げ込まれて爆発し、大きな音とともに白煙が立ち上った。
岸田首相は無事でその場に居合わせた人々にもけがはなかった。だが、爆発物の威力がもっと大きければ、大惨事になっていた恐れもある。それほど深刻な事件であると受け止めねばならない。
爆発物を投げ込んだ24歳の男は警備陣や周りの人に取り押さえられ、逮捕された。男は投擲(とうてき)した物体とは別に、爆発物とみられる円筒形の物体をもう一つ所持していたという。
不特定多数の聴衆を前に政治家が演説する選挙を悪用し、国政のリーダーを狙った卑劣かつ凶悪な犯行だ。民主主義の根幹である選挙を妨害し、国政を混乱させかねないテロである。絶対に許されず、最大限の非難に値する。
岸田首相は事件現場での演説を中止した後、予定していたJR和歌山駅前で応援演説を実施し、「大切な選挙をぜひ皆さんと力を合わせて最後までやり通さなければならない」と語った。衆院千葉5区補選のための千葉県市川、浦安両市での応援演説も行った。テロに屈しない姿勢を示したもので妥当である。
与野党から犯行を非難する声が上がった。各党、各候補者は民主主義を守るためにも国政補選、地方選の運動を貫徹してほしい。
警察には、逮捕した男の動機や背景を徹底的に捜査してほしい。同調者が現れる恐れもある。事件を受け、警察庁が要人警備の強化を全国に指示したのは当然だ。
参院選の街頭演説中に安倍晋三元首相が凶弾に斃(たお)れた事件があったのは昨年7月のことだ。
要人警護は強化されていたはずなのに、今度は現職の首相がいる演説会場で爆発物が投擲されてしまった。警備に問題はなかったかの点検を急ぐべきだ。
政党、政治家による選挙活動は有権者との触れ合いを重視する。一方、テロなどの事件を防ぐ警備は、要人と聴衆の距離を置いたり、持ち物を検査したりすることが効果的である。こうした相反する事情のもとでの警備強化は難しい課題である。
それでも民主主義と秩序安全の両立を図るため、警備関係者の努力を期待したい。
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2023年4月16日付産経新聞【主張】を転載しています