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民間では世界初となる月面着陸を目指した宇宙ベンチャー「アイスペース」(東京)の挑戦は、失敗に終わった。
同社が開発した月着陸船は4月26日未明、月面に向け順調に降下していたが着陸直前に通信が途絶えた。月面に激突した可能性が高いという。
結果は残念だが、旧ソ連、米国、中国しか達成していない月面着陸という難関に、日本のベンチャー企業が挑んだ意義は大きい。今回の経験を次の挑戦に生かし、欧米に後れをとってきた宇宙ビジネスの分野で、世界の最前線に参入することを、大いに期待する。
アイスペースは日本を拠点とするベンチャーだが、人材と技術を広く世界に求めた多国籍集団でもある。また、今回の挑戦を実現させるため、三井住友海上火災保険と共同で「月保険」を開発し、民間の挑戦を民間が支える仕組みを構築した。
こうした幅広い連携(ネットワーク)は、日本の産業全体、科学技術の研究開発にとっても、再生や活性化の起爆剤、原動力となり得るだろう。
袴田武史・最高経営責任者(CEO)は、「着陸直前までのデータを得られた。大きな一歩だ」と会見で語った。米スペースXの創業者、イーロン・マスク氏も大型宇宙船の打ち上げ失敗後に「多くを学んだ」とツイートした。
H3ロケット打ち上げ失敗後の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の会見が「おわび」から始まったのとは対照的である。
「果敢な挑戦と失敗」はベンチャーの特権ともいえる。それが失敗後の会見の対比に投影されているといえるだろう。
宇宙産業に限らず、科学技術分野の推進力は「挑戦と失敗」である。ベンチャー企業が、果敢な挑戦と失敗を存分にできるかどうかで、産業と科学技術の総合力は大きく左右される。
ベンチャーの力を生かしている国の筆頭が米国であり、日本はそのはるか後方に位置する。
アイスペースの挑戦と、そのために構築したネットワークは、こうした日本の現状を打破する突破口にもなり得る。
月面着陸失敗を受け、岸田文雄首相は「あくなき挑戦を応援する」とツイートした。ベンチャー企業の「果敢な挑戦」を幅広く支え、日本の再生につなげたい。
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2023年4月28日付産経新聞【主張】を転載しています