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日本の宇宙ベンチャー企業、アイスペースは4月26日未明(日本時間)に自社開発の無人の月着陸船での月面着陸を試みたが、残念ながら失敗に終わった。月着陸船は緩やかに月面に着陸するために着陸直前で主エンジンを噴射して減速したが、燃料が尽きて月面に激突したと見られる。燃料が尽きた理由は、着陸船の高度を認識するセンサーの認識と実際の高度に誤差があったために着陸前に燃料を使い切ってしまったためと考えられる。民間企業主導の世界で初めての月着陸を世界が見守ったが、成功はお預けになった。しかしアイスペースは月面着陸までの10個の目標のうち8個を達成しそのデータ収集には成功、次回以降の計画に生かす。
民間企業の挑戦
アイスペースは2010年に設立された。日本、ルクセンブルク、米国の3拠点を持ち、200名以上のスタッフがいる。月面の資源開発や月と地球の輸送サービスを業務に技術の実証を目指している。今回の月着陸船は2022年12月に米国の民間ベンチャー、スペースX社のロケットで打ち上げられ、約4ヶ月半かけて月にたどり着いた。遠回りだが燃料を使わずに効率よく月の重力圏に入れる軌道を取った。独自開発の月着陸船は小型化や軽量化が図られるなど、あらゆる面でのコスト低減が図られた。
今回失敗した計画「ミッション1」では、月面着陸が目標。2024年に予定される「ミッション2」では、自社開発の探査車での月面走行とデータの収集などが目的になる。2025年予定の「ミッション3」では、より大型の着陸船を導入しての貨物輸送にも挑戦し、米航空宇宙局(NASA)のアルテミス計画にも貢献するのが目標だ。
ミッションが進むにつれ、地球から月までの移動の技術、月の地形の写真や地質のデータ、気温や環境情報など商業利用に生かせるデータベースが蓄積され、収益源となる。
しかし、月面への着陸は難易度が高く、テストなしの1発勝負での挑戦になる。過去に成功したのは、旧ソ連、米国と中国の3カ国だけである。今回アイスペースはそれに続くことはできなかった。
宇宙ビジネスが民間主導に変わった背景
月は地球に一番近い天体で、月を調べることは地球を知ることにつながるとされる。月面で水や資源の採掘、画像データの収集を目的とした新たな経済圏が注目される。米国の金融機関の調査では、宇宙ビジネスは2040年に100兆円規模の市場になるとの予測もある。
宇宙開発が国家主導から民間主導に変わったきっかけは何か。2005年に米国政府はスペースシャトルの後継機の開発を民間に任せることを決定した。ここから宇宙開発が国家から民間企業へと移ることになる。ただし、宇宙事業には多額の資金が必要になるが、事業に参加する企業はそのファイナンスを担うことになる。
アイスペースは日本政府が企業に宇宙で開発した資源の所有権を認める「宇宙資源法」に基づく資源開発計画で最初の許可を受けている。同社は月面で採取した月の砂をNASAに販売する契約も結んでいる。宇宙開発での国際ルールはまだ決まってはいないが、実際に参加する国や企業が実務を行いながらルール作りをすることになる。
宇宙ビジネスでは、打ち上げ、輸送、データ収集、探索、ファイナンス、マーケティングなど様々な段階での事業分野が考えられ、今回の「ミッション1」でも多くの国内外の組織や企業が関わっている。三井住友海上火災保険は、ロケットの打ち上げから月面着陸の過程までを対象とした世界初の月保険をアイスペースと共同開発した。
資金調達のため、アイスペースは今年4月に日本市場に上場して投資家から資金調達をした。さらに金融機関からの融資や顧客企業との契約での前金受領なども受けている。しかし4月26日の「ミッション1」での月面着陸失敗の情報が伝わると、東京市場ではアイスペース株の売り注文が殺到し、制限値幅の下限まで株価は下落した。
技術力を信じて挑戦は続く
政府主導ではなく民間での宇宙への挑戦。アイスペースの袴田武史CEOは様々な工夫を凝らし、再挑戦への意欲を燃やしている。今回得た貴重なデータは教訓として次回に活かされるか、今後の挑戦が注目される。
筆者:海藤秀満(JAPAN Forwardマネージャー)