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今夏にも予定される東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関連し、韓国の専門家らの視察団が5月23日に来日する。
韓国内には放出への安全性を懸念する世論が根強いため7日に訪韓した岸田文雄首相と尹錫悦大統領の会談で合意した視察だ。韓国側の懸念解消に直結することを期待したい。
さらには韓国で続く福島県などの水産物の輸入禁止の解除も望まれよう。だが懸念もある。この視察を韓国側が海洋放出の安全性に関する両国の「共同検証」と誤解しかねない危うさである。
西村康稔経済産業相が9日の会見で視察について「処理水の安全性の評価を行うものではなく、あくまで韓国の理解を深めてもらうための対応だ」とくぎを刺したのも誤解を避けるためだろう。
韓国の視察団には、この点をしっかり認識した上で、第1原発の現場での日本側の説明に耳を傾けてもらいたい。そうすれば韓国内で使われることがある「汚染水」という表現の不正確さが、いやでも理解できるはずである。
処理水は、事故で生じた放射能汚染水から可能な限り放射性物質を除去したものだ。残るトリチウム(三重水素)を含む処理水は十分に希釈され、海底トンネルで1キロ沖の太平洋に放出される。
この放出計画の安全性は国際原子力機関(IAEA)による検証が進行中だ。
日本はすでに、海洋放出に関し内外への情報発信を十分に行っている。韓国の視察団をあえて受け入れることにしたのは、「共同検証」のためではない。
韓国内には依然として、処理水への誤解と不信が深く根を張っている。尹政権下で芽生えた日韓融和の動きに水を差す一因ともなりかねない現在の状況を払拭する狙いがある。
北朝鮮の核・ミサイル開発に対し、日韓は相互協力による抑止力強化が急務である。両国首脳の合意による視察の実現は、協力のための融和の醸成が目的だ。日韓関係を振り返れば、韓国側によって数々の了解事項が踏みにじられた過去があるが、処理水でのそうした繰り返しは願い下げだ。
視察団には福島第1原発の現場で実見する処理水放出の準備状況を丁寧に、自国の人々に伝える必要がある。両国に実りある視察となることを強く望みたい。
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2023年5月11日付産経新聞【主張】を転載しています