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「ロシアを最後の侵略者にしなければならない。そのロシアの敗北の後に、平和のみが栄えるようにだ」
先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に対面参加したウクライナのゼレンスキー大統領の血を吐くような世界への訴えかけだった。
ゼレンスキー氏は、平和記念資料館(原爆資料館)を視察した後の演説で「全焼したウクライナの街は広島の街、原爆資料館を訪れたときに見た写真に似ている」と述べ、再建された広島にウクライナの将来を重ねた。
一連の発言は、侵略を続けるプーチン露大統領に対する勝利へ不屈の覚悟を示し、力による現状変更は金輪際許さないとの強固な連帯を促した。世界は重く受け止めねばならない。
ゼレンスキー氏は、G7首脳との全体会合では自ら「10項目の和平提案」を示し、いの一番に「放射線・核の安全」を挙げた。
ウクライナは1986年にチェルノブイリ(チョルノービリ)原発での史上最悪の放射能事故に見舞われた。プーチン政権は核攻撃の威嚇を繰り返し、ロシア軍は今も南部のザポロジエ原発に居座っている。ゼレンスキー氏が被爆地広島から直接、核使用・威嚇へ強い警告を発した意義は大きい。
演説でゼレンスキー氏は「ロシアが占領する領土を、一片でもロシアに与えてしまったら、国際法は決して機能することはない」と語り、全占領地の奪還を宣言、和平提案では「露軍の撤退と戦争行為の中止」を迫った。
ウクライナ軍の反転攻勢が取り沙汰される中、バイデン米政権は北大西洋条約機構(NATO)加盟国が米国製F16戦闘機をウクライナに供与することを認めると発表した。
現実の引き渡しは操縦士の訓練などを経た何カ月も先になる見通しだが、米欧側が、ウクライナへの軍事支援を長期にわたって続けていく意思表示ともいえる。歓迎すべき決断だ。
「ロシアを最後の侵略者に」とのゼレンスキー氏の発言は台湾有事を見越したものともいえる。
中国は「台湾は内政問題だ」と言い張り、「武力行使を放棄しない」姿勢を示している。強引な台湾併吞(へいどん)は、ウクライナ侵略と変わらぬ力による現状変更だ。世界は決して容認しないと中国は知るべきだ。
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2023年5月23日付産経新聞【主張】を転載しています