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警察庁のまとめ(暫定値)によると、今年1~6月の上半期に全国の警察が認知した刑法犯は、前年同期比で5万8123件(21・1%)増の33万3003件だった。上半期では、21年ぶりの増加である。
統計数字の増減だけが問題なのではない。
警察庁の露木康浩長官は6月、全国の都道府県警の刑事部長らを前に「体感治安の悪化が著しい」と述べた。体感治安とは社会を構成する人々が主観的に感じる治安情勢のことであり、凶悪事件の頻発などが影響する。
悪化の大きな要因は、広域連続強盗やアポ電(アポイントメント電話)強盗などの凶悪化だろう。1月には、東京都狛江市に住む90歳の女性が暴行され死亡する強盗致死事件が発生した。
一連の事件の多くは特殊詐欺から派生した犯行グループによるものとみられている。インターネット上の闇サイトに応募した闇バイトの実行役が首謀者の指示に従い容赦なく被害者を襲う。被害者の選定にもネット上などで売買される闇名簿が使用される。「ネットの闇」が体感治安を押し下げていることは間違いあるまい。
警察庁のまとめでは、今年上半期、闇バイトを含む強盗は24・4%増の683件で、強盗で摘発された703人のうち、犯行時点での年齢が20代以下だったのは半数超の368人、10代は56%増の156人だった。ここにも若い実行役が安易に闇バイトの誘いに乗る傾向がみてとれる。
広域連続強盗では警視庁がフィリピンを拠点とした「ルフィ」を名乗る幹部ら特殊詐欺グループを摘発したが、同種の犯罪は止まらない。第2、第3のルフィが跋扈(ばっこ)しているとみるべきだ。
警察当局には、こうした闇バイト犯罪の根絶に向けた集中捜査を求めたい。俗に「検挙に勝る防犯なし」というが、検挙にとどまらず、抑止のための広報活動にも力を入れてほしい。
広域連続強盗などの捜査では、こんな実態も明らかになった。実行役は首謀者らに個人情報を握られ、犯行への加担が次の強要の材料となる。自身や家族への脅しでグループを抜けられず、犯行のエスカレートを強要される。高額報酬などの甘い誘い文句に乗ったばかりに味わう、こうした負の連鎖を広く知らしめてほしい。新たな実行犯を生まぬために。
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2023年7月23日付産経新聞【主張】を転載しています