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スポーツは多くのものを与えてくれる。白熱のプレーは感動と興奮を生み、われわれは、それらを分かち合うことで一体感を育める。
日本勢の活躍は社会を活気づけ、同じ国民としての誇りを実感させてくれる。「スポーツの力」とはそういうものだ。
来年夏のパリ五輪開幕まで1年を切った。多くの競技で代表争いが本格化し、国際大会では日本勢の躍進が目を引く。
バレーボールのネーションズリーグ男子では、日本が初の3位に入った。主要世界大会でのメダル獲得は46年ぶりだ。
福岡市で開催中の世界水泳選手権では、アーティスティックスイミングの日本勢が金メダル4個を手にした。銀、銅を合わせた計7個のメダルは、過去最多だった前年大会に並ぶ好成績である。日々の鍛錬を実らせたアスリートたちに、賛辞と拍手を送りたい。
国民の関心は、一昨年夏の東京五輪でひと息ついた観がある。開催準備を巡る事件を通して五輪そのものへの不信感が高まり、2年前の感動と興奮の記憶がかすんでしまったことも否定できない。
しかし、それらはアスリートの罪ではない。むしろ彼らが驚異的な奮闘を通して、「スポーツの力」を再確認させてくれたことを思い起こしたい。
強豪国のドイツとスペインを連破し、歴史的な躍進を見せたサッカー・ワールドカップ(W杯)の日本代表であり、野球発祥国の米国を制して頂点に立ったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表である。
沖縄などが舞台となるバスケットボールのW杯は開幕が8月下旬に迫り、9月にはラグビーのW杯フランス大会が始まる。
選手強化にゴールはない。日の丸を背負い世界で戦うアスリートを支え続けることが、五輪開催を経験した国として守るべきレガシー(遺産)であるはずだ。
日本オリンピック委員会(JOC)は発信力を欠き、東京五輪の大会組織委員会(清算法人)は事件当事者としての意識に乏しい。パリ五輪に向けた盛り上がりに水を差しかねない存在だ。
「スポーツの力」は少しも損なわれていないことを、アスリートたちは実証してほしい。「五輪は懲り懲り」という忌避感を東京大会の負の遺産としないためにも、さらなる奮起を期待する。
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2023年7月28日付産経新聞【主張】を転載しています