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議長、ご列席の皆さま、われわれは今、こうして再びニューヨークに集まっていますが、折り返し地点にきたSDGs(持続可能な開発目標)は大きな課題に直面し、残念ながらウクライナ侵略はいまなお続いています。
世界が歴史の転換点にある本年、日本は安全保障理事会に入り、G7(先進7カ国)議長を務めています。その中で私は、平和への切実な願い、助けを求める脆弱(ぜいじゃく)な人々の声に耳を傾けてきました。この声をしっかり受け止め、分断・対立ではなく、協調に向けた世界を目指したい。これが私からのメッセージです。
グテレス事務総長は、「われわれのコモン・アジェンダ」の中で、国際的な連帯の重要性を呼びかけました。国連を中核に置いた、強く実効的な多国間主義に改めてコミットしようではありませんか。
議長、世界は、気候変動、感染症、法の支配への挑戦など複雑で複合的な課題に直面しています。各国の協力がかつてなく重要となっている今、イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できません。われわれは、人間の命、尊厳が最も重要であるとの原点に立ち返るべきです。われわれが目指すべきは、脆弱な人々も安全・安心に住める世界、すなわち、「人間の尊厳」が守られる世界なのです。
国際社会が複合的危機に直面し、その中で分断を深める今、人類全体で語れる共通の言葉が必要です。「人間の尊厳」に改めて光を当てることによって、国際社会が体制や価値観の違いを乗り越えて「人間中心の国際協力」を着実に進めていけるのではないでしょうか。
日本は、これまでも、人間の安全保障の理念に基づく「人間中心の国際協力」の先頭を切ってきました。このアプローチとともに、われわれは、SDGs達成に向けた国際社会全体での取組を加速化しなければなりません。
国家や国際社会が地球規模課題に取り組む過程で、個人の尊厳がないがしろにされてはなりません。格差を克服し、SDGsを達成するためにも、「質の高い成長」、「持続可能な成長」が必要です。その鍵は、私の政治信条でもある「人への投資」にあります。
「質の高い成長」にはジェンダーの視点も重要です。日本は、女性参画推進を通じた格差是正や社会の対立克服を目指します。また、途上国の持続可能な成長のため、国際ルールを順守した、透明で公正な開発金融の促進に取り組みます。開発資金ギャップを埋めるため、民間資金も活用していきます。日本は各国とともに、投資のダイナミズムを引き寄せつつ、「人間の尊厳」を守る経済のあり方を模索してまいります。
議長、未曽有の危機と課題に立ち向かい、「人間の尊厳」を守り、強化するため、各国とともに、一歩一歩、実現できるところから実現していこうではありませんか。第1に、「人間の尊厳」が尊重される、平和で安定した国際社会の実現に向けた協力です。「核軍縮」は、被爆地広島出身の私のライフワークです。「核兵器のない世界」に向け、NPT(核拡散防止条約)体制を維持・強化し、現実的・実践的な取り組みを継続・強化していきます。「ヒロシマ・アクション・プラン」の下での取り組みを実行していきます。
安全保障環境が非常に厳しい今だからこそ、より幅広い立場の関係者があらゆる機会を捉えて核軍縮の意義に触れ、具体的な行動をとるよう、核兵器国をはじめ世界中の政治リーダーたちの一層の関与を呼びかけていきます。
そして、被爆者の方々とともに希求してきた「核兵器のない世界」という理想に向けて、先人の努力により「主流化」した核軍縮の流れを確実に進めていくことが必要です。
今、われわれは世界全体の核兵器数の減少傾向が逆転する危険に直面しています。30年前、ここ総会でうたわれた兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)構想の意義は、今もなお変わりません。30年が経過した今、FMCTへの政治的関心を再び集めるべく、先ほどFMCTハイレベル行事をフィリピンおよび豪州と共催しました。
核兵器国を具体的な核軍縮措置に巻き込むことが重要です。日本は安保理非常任理事国として、核兵器国と非核兵器国の間の議論を促進するべく、国連や関係国と協力してまいります。
核軍縮「主流化」の流れを改めて確実に進めていくためには、政府だけではない、重層的な取組が重要です。アカデミアや実務の世界における「抑止か軍縮か」との二項対立的な議論を乗り越えるため、日本は、新たに30億円を拠出して、海外の研究機関・シンクタンクに「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」を設置します。
昨年、国連と協力し設置した「ユース・非核リーダー基金」を活用し、核廃絶に向けた若い世代のグローバルなネットワーク形成も継続していきます。
紛争下を含め、核物質と原子力施設の原子力安全、核セキュリティーを確保することも必要不可欠です。
また、紛争により脆弱な立場に置かれた人々の尊厳の擁護も重要です。ウクライナでは、ロシアによる侵略が長期化しています。こうした事態が食料危機を永続化させてはなりません。アフリカ・中東をはじめ脆弱な人々への支援が不可欠です。
紛争下において最も脆弱な立場にある、女性や子供の安全の確保、人身取引対策や国境管理の強化支援、誘拐された子供の帰国に対する国際的な支援が必要です。女性・平和・安全保障(WPS)は女性を重要な施策の担い手と位置付け、平和や安全保障における女性の役割を能動的に捉えており、日本としても引き続き推進してまいります。
第2に、デジタル化の進展と人間の尊厳との両立の実現です。デジタル化は、人々に利益をもたらす一方、プライバシーや人権を侵害するリスクをはらみます。人間の尊厳と両立するデジタルのエコシステムや国際ルールが必要です。
このため、G7広島サミットでは、信頼できるAI(人工知能)を目指し、生成AIに関する「広島AIプロセス」を立ち上げました。サイバーセキュリティーを確保し、途上国のデジタル化が進捗(しんちょく)するよう、日本は支援を強化していきます。
第3に、ネット・ゼロ実現までの人々に対する負担の軽減に取り組みます。グローバルなネット・ゼロの鍵を握るのがアジア諸国です。「アジア・ゼロエミッション共同体」構想のもと、多様なニーズを踏まえた実効的な協力を推進していきます。
海面上昇や、異常気象に伴う自然災害に耐性を持つ強靱(きょうじん)な経済社会の建築に向け、島嶼(とうしょ)国を含む気候変動脆弱国に対し、防災の観点から更なる支援を行います。
海洋は潜在力豊かな新たなフロンティアであり、ブルーカーボンの活用等による気候変動への対応を含め、総合的かつ積極的な取り組みが不可欠です。国際法の観点も重要です。将来的な海面上昇による海岸線の後退後も、国連海洋法条約に基づく既存基線の維持を支持します。
G7議長国として、生物多様性の保全に関する連携の枠組みと、2040年までの追加的なプラスチック汚染ゼロとの野心を定めました。今後も、環境分野での貢献を継続します。
第4に、次の感染症への備えです。新型コロナウイルスとの戦いで得られた教訓を踏まえ、次の感染症に備えなければなりません。
G7として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成、健康危機に対する予防・備え・対応強化のため、官民併せて480億ドル以上の資金貢献にコミットしました。日本は2022年から25年までに75億ドル規模の貢献を行います。
国内資金動員とともに、インパクト投資促進を通した民間資金動員を支援します。感染症危機対応医薬品等への公平なアクセス確保等において、G20(20カ国・地域)の成果も踏まえ新興国を含む途上国とも一層連携します。
議長、世界が歴史の転換点にある今こそ、われわれは初心に立ち戻るべきです。国連憲章には、二度の大戦の経験を経た、戦争の惨害から将来の世代を救い、「人間の尊厳」を守るという、先人達の固い決意が刻まれています。
主権平等、領土一体性の尊重、武力行使の禁止といった国連憲章の原則は、人々が平和に暮らすための国際法の根本原則であり「法の支配」の根幹です。国際法は、弱い立場の国のためにあります。「人間の尊厳」を守り強化するために、脆弱な国・人々が平和に生きる権利を、「法の支配」をもって、ともに守りたいと思います。
しかし、今も安保理常任理事国ロシアが国際法、「法の支配」を蹂躙(じゅうりん)しています。力または威圧による一方的な現状変更は、世界のどこであれ、認められません。総会が繰り返し非難する国連憲章違反、人権侵害の状況を一刻も早く是正し、核の威嚇をやめるべきです。
私は、本年3月、FOIP、自由で開かれたインド太平洋について、新プランを発表しました。「自由」や「法の支配」、「包摂性」「開放性」「多様性」といった理念の下、多様な国家の共存共栄に向け、ビジョンを共有する各国と協力していきます。
平和の担い手への支援も拡充します。「国連三角パートナーシップ・プログラム」の幅と質を強化します。AU平和支援活動の派遣要員への能力構築支援等のため、約900万ドルの追加拠出を行います。
日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指すという方針は不変です。
ともに新しい時代を切り開いていくという観点から、条件を付けずにいつでも金正恩委員長に直接向き合うとの決意を伝え、首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたいと思います。
議長、国連は、対立と分断ではなく、困難に直面する人々に耳を傾け、エンパワーし、協調して困難に立ち向かう場であるべきです。
本年、われわれは、総会議長を支える体制強化の具体策に一致しました。これは協調のための国連に向けた着実な一歩です。多国間主義のビジョンを打ち出しておられる、事務総長のリーダーシップを高く評価します。
国連の分断・対立を悪化させる拒否権の行使抑制の取り組みは、安保理の強化、信頼回復につながります。常任理事国以外の加盟国による安保理の議論へのアクセスを向上させるなど、安保理の議論の透明性を高めるための努力も継続します。そのためにも、安保理規則の明確化に、日本は貢献していきます。
世界は大きく変わっています。現在の世界を反映した安保理が必要です。アフリカの代表性の向上を支持しており、常任・非常任理事国双方の拡大が必要です。来年の未来サミットやその後の国連創設80周年を見据え、具体的な行動に移る機会が今です。
議長、「人間の尊厳」を守り強化する国際協力は、世界が再び同じ目標に向けて動き出す原動力となります。来年の未来サミットで、将来世代を念頭に議論を深めることを楽しみにしています。
その先、ポストSDGsを今後検討していく上でも、「人間の尊厳」こそが国際社会の未来を照らす中核的な理念とならなければなりません。「人間の尊厳」を強化するため、力を結集し、「協調のための国連」を実現しようではありませんか。ご清聴ありがとうございました。