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中国の浙江省杭州で開催中のアジア大会にインドの武術選手が出場できず、インド政府が抗議し、閣僚の訪中を見送った。
該当の女子選手はインド北東部アルナチャルプラデシュ州の出身で、中国入国に必要な書類を入手することができなかった。
中国は同州を含む地域を蔵南(南チベット)と呼び、領有権を主張しているためだ。
アジア大会を主催するアジア・オリンピック評議会(OCA)はその根本原則に「国際オリンピック委員会(IOC)のオリンピック憲章に定められた原則を適用し、堅持する」と明記している。
五輪憲章は「人種、宗教、政治、性別、その他に基づく、国もしくは個人に対する差別は、いかなる形でも五輪運動への帰属とは相いれない」と定めており、今回の中国側の専横は憲章違反に他ならない。
開会式には、IOCのバッハ会長やOCA幹部も臨席していた。この問題を看過することは許されず、厳しく中国政府を指導すべきである。
習近平国家主席は開会式で、「スポーツで平和を促進し冷戦思考を食い止めなくてはならない」とあいさつした。スポーツ大会を領土的野心の発露の場におとしめているのは誰か。明らかではないか。
8月末に発表され、国境線や南シナ海などをめぐって周辺各国が反発した中国自然資源省による新地図でも、アルナチャルプラデシュ州は中国の領土として記載されていた。
同州では昨年12月、インド、中国両国軍兵士による衝突があり、負傷者が出た。中国側が無許可で居住施設の建設や道路整備を行ったことも確認されている。南シナ海における既成事実づくりの内陸版だ。アジア大会における同州出身選手の拒絶もこの延長上にある。
中国の新地図で沖縄県の尖閣諸島は中国側名称の「釣魚島」と表記されている。日本政府の抗議を、中国外務省は「釣魚島は中国固有の領土。地図表示は当然だ」として受け付けなかった。中国は沖縄本島についても野心をちらつかせている。想像してほしい。中国の国際大会では沖縄出身の選手に入国許可が出なくなるかもしれない。アジア大会におけるインド選手の問題とは、そういうことだ。
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2023年9月27日付産経新聞【主張】を転載しています