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今年は和食がユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されて10年の節目である。
文化といっても幅広いが、食文化ほど風土に根ざし、国民性や国そのものを表現するものはないだろう。
その年に、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出をめぐり中国が、日本産水産物の全面輸入禁止という暴挙に及んだ。水産物は和食の根幹を成すものだ。影響は小さくなく、科学を無視した不当な振る舞いには怒りを禁じ得ない。
11月3日は文化の日である。改めて、世界に誇る日本の食の豊かさに目を向け、その継承発展に努めたい。
観光庁の令和4年訪日外国人消費動向調査で「訪日前に期待していたこと」を複数回答で尋ねると「日本食を食べること」が78%と最も多かった。次いで「ショッピング」49%、「繁華街の街歩き」38%、「自然・景勝地観光」35%だった。
日本を訪れる外国人の多くが日本の食に親しみ、本場の味を楽しみに来日していることがわかる。
和食とは日本人の伝統的な食文化をいう。ユネスコ登録に際しては、「自然を尊重する日本人の心を表現したもの」とされ、伝統的な社会慣習として世代を超えて受け継がれていると評価された。
特筆すべきはその特徴だ。自然の美しさや季節のうつろいを表現し、正月や節句など古くからの年中行事とも深く関わりながら育まれた。器やしつらいも含め、美味の中に日本文化が凝縮されているのである。
背景には、海に囲まれた四季折々の豊富な食材があり、地域ごとに多様な食文化が継承されてきた歴史がある。
ところが、グローバル化や生活様式の変化で、伝統的な食文化である郷土料理も継承が難しい。近年の気候変動による海産物や農産物への影響も深刻だ。受け継ぐための知恵と努力、仕組み作りが欠かせない。
11月3日は明治天皇の誕生日に当たり、遺徳をしのぶ祝日「明治節」だった。欧米列強に伍(ご)すべく近代化を先導された明治天皇は、一方で古来の宮廷文化の振興にも努められた。
そのお志に思いをはせて、この日を日本のみならず世界の人々に和食の精神を伝え、未来につなぐ契機としたい。
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2023年11月3日付産経新聞【主張】を転載しています