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10月の訪日客が251万6500人となり、新型コロナウイルス禍前の令和元年10月の水準を0・8%上回った。月別の訪日客がコロナ前を超えるのは初めてだ。
政府は昨年10月に、1日当たり5万人としていた入国者数の上限を撤廃し、外国人の個人旅行も解禁するなど水際対策を緩和した。現在の円安もあって訪日客は順調に回復している。
7~9月期の訪日客による消費額も元年の同時期を17・7%上回り、四半期ベースで過去最高を記録した。
観光地がにぎわいを取り戻すのは結構なことだが、一方で深刻になっているのがオーバーツーリズム(観光公害)の問題である。国内外から訪れる観光客の集中やマナー違反で、地元住民の生活に支障が出ている地域もある。実効性のある対策を急がなければならない。
京都市ではバスの増便が観光客の増加に追いつかず、地元住民が利用できなかったり、円滑な運行の妨げになったりしている。異なる農作物がパッチワークのように広がる美しい景観で知られる北海道美瑛町では、観光客が私有地である農地に立ち入るケースが頻発している。
政府はこうした事態に、オーバーツーリズムの対策パッケージを10月にまとめた。混雑時に鉄道運賃の引き上げを認める制度を行楽期や観光客の多い曜日・時間帯に導入することや、防犯カメラの設置を支援することなどを盛り込んだ。
ただ、例えば混雑時の運賃引き上げは、住民の負担が増すことにもなりかねない。旅行者に旅程変更を促すには、大幅な運賃引き上げが必要だろう。実効性には課題が残る。
訪日客の宿泊先は7割超が三大都市圏に偏っている。対策パッケージでは「地方部への誘客をより一層強力に推進」と明記したが、地方観光地の受け入れ態勢を整えたうえで、その魅力を海外に広く発信していく取り組みを推進したい。
訪日客は今後さらに増加が見込まれているが、地元住民の不満が高まることになれば、政府が目指す「観光立国」の実現はおぼつかない。
オーバーツーリズムの対策には決め手はないとされる。地元住民の生活を守りながら、それぞれの観光地の実情に合わせた取り組みが求められる。
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2023年11月19日付産経新聞【主張】を転載しています