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国際オリンピック委員会(IOC)は、ウクライナを侵略するロシアと、同盟国ベラルーシの選手について個人資格の「中立選手」として来夏のパリ五輪参加を認めると発表した。誤った判断は撤回すべきである。
IOCは、侵攻を積極的に支持する選手、軍や治安当局の所属選手は中立選手の対象外としたが、個々の選手の内心を面接で確認するのか。むしろ侵略に反対する選手の権利こそIOCが守るべきだろう。
ロシアは五輪を国威発揚の場として露骨に利用してきた。
ドーピング問題で国としての出場が認められず、中立の個人として昨年の北京冬季五輪に参加した選手らをモスクワで開いた国旗が乱舞する熱狂的な歓迎式典に迎え入れ、この直後にプーチン大統領はウクライナへ派兵命令のテレビ演説を行った。五輪選手が戦争の具とされた苦い経験を、IOCはもう忘れてしまったのか。
五輪憲章は根本原則で、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、国あるいは社会的な出身などの理由によるいかなる差別も受けない」とうたっている。これが「パスポート(国籍)を理由に大会参加が妨げられてはならない」とするIOCの論拠だろう。
だが、根本原則はその上位で「普遍的で根本的な倫理規範の尊重」「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」と明記している。無辜(むこ)の人々の生命と生活を奪う侵略はIOCが最も忌み嫌うべき行為であるはずだ。
ウクライナからは「無責任な決定を強く非難する」と声が上がった。世界陸連のセバスチャン・コー会長は「陸上での出場はない。われわれの意見は変わらない」と述べ、両国選手の陸上競技からの除外を継続する考えを示した。
日本オリンピック委員会(JOC)やIOC委員をはじめとする国内のスポーツ界も、ロシア選手の五輪参加容認に反対の声を上げるべきだ。
この問題の結論を先送りにし続けてきたIOCは、イスラエルとハマスの紛争で世界の目がウクライナから離れた隙を突いたようにみえる。はっきりさせなければならない。スポーツ大会をはじめとする国際社会の場にロシアが復帰する条件は、侵略からの撤退のみである。
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2023年12月14日付産経新聞【主張】を転載しています