~~
2024年も東アジアは嵐の予感が漂っている。日本海は今年も、北朝鮮、ロシア、中国と民主主義陣営が対峙(たいじ)する最前線となる。新潟県の「佐渡金山」は、日米韓の安全保障協力の行方を占う試金石になるかもしれない。
年明けの大波は1月、台湾に押し寄せる。蔡英文総統の後継者を決める総統選がある。
選挙戦は与党、民主進歩党の頼清徳副総統が支持率でリードし、最大野党、中国国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)新北市長が追う展開が続く。中国は武力威嚇は逆効果と悟ったのか、年末の台湾海峡は比較的に静かだった。だが、中国は頼氏が「独立派」の「戦争メーカー」だと喧伝(けんでん)し、台湾には不気味な偽情報が飛び交う。何が起きるか分からない。
韓国総選挙、波高し
荒波は4月、韓国にも到来する。今回の総選挙は日米韓協力の命運がかかる。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の保守系与党「国民の力」は、支持率低迷にあえいでいる。昨年10月、総選挙の前哨戦となったソウル市の区長補選では革新系野党に大敗し、党代表が辞任した。「国民の力」は現在、少数与党。総選挙で惨敗を喫すれば、尹氏は残る3年間の任期中、レームダック化が避けられない。革新系野党が勢いを増せば、尹政権で劇的に改善した日韓関係にもブレーキがかかる。
佐渡金山が重要なのは、日韓歴史戦のリトマス試験紙となるからだ。夏に「その時」がやってくる。
日本は22年、「佐渡島の金山」をユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録申請した。韓国は「朝鮮半島から連行された労働者が強制労働させられていた」と訴え、申請撤回を求めてきた。登録の可否を決めるユネスコ世界遺産委員会は今年、7月にもインドで開かれる。
歴史戦再燃の不安
日韓のプライドをかけた外交対決になれば、韓国の野党が尹政権の「弱腰外交」を突き上げ、反日世論を煽(あお)るのは目に見えている。日韓関係が緊張すれば、動き出したばかりの日米韓防衛協力に影が差す。
日米韓協力は昨年8月、米キャンプデービッドでの3首脳会談で本格化した。北朝鮮の核使用、中国による台湾侵攻という有事を視野に、日米、米韓の「双子の同盟」が結束し、東アジア安保の重要な一歩になった。尹政権が歴史問題を封印し、日本に歩み寄ったから可能だった。
悪いことに、日本では岸田文雄首相の足元がグラつく。自民党の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑に捜査のメスが入り、「9月の党総裁任期満了まで持つのか」との声が出る。佐渡金山の世界遺産申請は「ユネスコに再び歴史問題を持ち込む」と外務省が渋ったのを、岸田氏が決断し、自ら国民に発表した経緯がある。譲歩できない。
トランプ氏再登板なら
もっとも、11月の米大統領選でトランプ前大統領が返り咲けば、すべてがひっくり返ってしまう。
トランプ氏は多国間主義が大嫌い。日米韓協力、米英豪のAUKUS(オーカス)、日米豪印のクアッドなど、バイデン政権が築いた重層的な安保枠組みはマヒ状態になるかもしれない。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記はトランプ氏との再会を楽しみにしているだろう。
トランプ氏が大統領に初当選した際、当時の安倍晋三首相はその懐にすかさず入り込み、日本は欧州のような逆風にさらされずに済んだ。バイデン政権の対中強硬策はトランプ時代が始まりだから、路線に大きな変更はないと予想される。
だが、トランプ氏がホワイトハウスを去って4年間で、米中の力関係は大きく変わった。グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国で米国の影響力は衰退し、中国はその穴を埋めるように伸長した。果たして、トランプ氏はフィリピンや南太平洋の島嶼(とうしょ)国に迫る中国の船団に、本気で対応しようとするだろうか。
広大なインド太平洋で中国に対抗するには、多国間協力が絶対に必要だ。東アジアは今年、大嵐に耐えねばならない。
筆者:三井美奈(産経新聞)