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十代とは思えない落ち着いた物腰に貴公子然とした顔立ちで、〝梨園のプリンス〟という言葉がぴったりな八代目市川染五郎さん(18)。歌舞伎界の名門、高麗屋の遺伝子を受け継ぎ、将来を期待されている。最近活躍の場を広げており、来年1月の東京・歌舞伎座公演「壽 初春大歌舞伎」(1月2~27日)では3演目に出演する。染五郎さんが本公演について語った。
完全にあほに徹して
昼の部では、父親の十代目松本幸四郎さん(50)とともに狐と狸の化かし合いのように、夫と妻がだまし合う「狐狸狐狸ばなし(こりこりばなし)」に出演。初役でちょっと頭の弱い雇人の又市に挑戦する。
幸四郎さんから役作りのアドバイスを受けたという染五郎さん。「又市はあほなふりをしている役なので、正気に戻ったときの違いをはっきりと見せるように言われました。あほのふりをするというより、完全にあほに徹っして、お客さまもだます感じで演じたい」
これまで染五郎さんは「弥次喜多」や「吉原狐」など、ドタバタ喜劇調の歌舞伎にも出演し、軽やかに演じてきた。
「意外と笑わせるのは好きですね。コメディーが好きというより、いろいろな役ができる役者になりたいので、三枚目な役もできるようになりたいです」
夜の部では、初春らしい祝祭舞踊「鶴亀」に従者役で、同世代の三代目尾上左近さん(17)らとともに出演する。「お正月らしい作品なので、華やかな気持ちで1年をスタートしていただけるような踊りにしたい」と意気込む。
「同世代の役者が少ない世代なので、左近君と一緒に出させていただけるのはうれしい。同世代だからこそ受ける刺激もたくさんあるので、個人的にはいちばん楽しみなところです」と声を弾ませた。
親子三代で「息子」披露
また同じく夜の部では、祖父の二代目松本白鸚さん(81)や父、幸四郎さんと親子三代で、英国の戯曲を小山内薫が翻案した「息子」を披露する。
すでに稽古を始めているが、「祖父と父と3人で出させていただけるのがうれしい。出演者が3人だけの芝居というのは、なかなかないのでは。日常会話のような、せりふが逆に難しい」と、作品の印象を語った。
一方、令和5年を振り返り、いちばん印象に残った舞台として、9月に上演された「俳優祭」で「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の車引(くるまびき)の場で松王丸を演じたことを挙げた。
「高麗屋というと『勧進帳』の弁慶や『菅原伝授手習鑑』の松王丸だったり、『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ』の仁木弾正(にっきだんじょう)だったり、スケールの大きな立ち役のイメージがあるので、〝ザ・高麗屋〟という役をやらせていただけたのがすごくうれしかった」
さらに「最近は祖父に役を教わることがなかったが、松王丸は声の出し方から、決まりの形、小道具の扱い方まで祖父に見てもらった。役者として目標としている祖父から直接教えてもらったことが何よりもうれしかったし、祖父からいろいろと教わっておきたいと改めて思いました」
最後に本公演について、「さまざまな毛色の作品がそろっていると思うので、いろいろな世代の方々や海外の方にも来ていただきたい。お正月らしい華やかな装飾がされた劇場の空気感もぜひ楽しんでほしい」とPRした。
問い合わせは、チケットホン松竹(0570-000-489)。
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■いちかわ・そめごろう 平成17年、東京生まれ。19年に初お目見え。21年に四代目松本金太郎を名乗り、初舞台。30年に八代目市川染五郎を襲名。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や映画「レジェンド&バタフライ」などにも出演。
筆者:水沼啓子(産経新聞文化部編集委員)