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中国政府に批判的な香港紙として知られた蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)の創業者で、香港国家安全維持法(国安法)違反の罪で起訴された黎智英(れい・ちえい)(ジミー・ライ)氏の審理が本格化した。
香港民主化運動(2019~20年)の弾圧を象徴する裁判である。
香港は高度な自治を保障された「一国二制度」のはずで、報道の自由が認められていなければならない。それらを奪う国安法が、中国の習近平政権の主導で制定され、運用されていること自体、決して許されない。黎氏の起訴も、裁判も到底容認できないと、国際社会は声を上げるべきだ。
黎氏が問われているのは、国安法で規定された「外国または域外勢力と結託し国家の安全に危害を加える罪」2件と、刑事罪行条例違反の罪(扇動出版物発行などの共謀罪)である。
いずれも、報道の自由を攻撃する香港当局と、その背後にいる中国政府の姿勢を反映している。黎氏が起訴内容の全てを否認し、全面的に争う姿勢を見せたのは当然だ。
そもそも裁判で審理が尽くされるかどうか極めて疑わしい。習政権は黎氏を19年の反香港政府・反中国共産党デモの最大の首謀者とみなしている。黎氏に重い判決を言い渡すことがすでに決まっているとの疑いも払拭できない。国安法の最高刑は終身刑である。
裁判の審理が公開されない可能性も懸念されている。国安法は第41条で「国家の秘密や公共の秩序」に関わる場合、「審理の一部あるいは全部を非公開にすることができる」と規定している。
審理の公開は、公正な裁判を確保するために欠くことのできない原則だ。中国本土では、民主活動家など政治犯の裁判の場合、メディアや外交官はもちろん、家族さえ傍聴できない秘密裁判が横行している。黎氏の審理の非公開化は断じて認められない。
黎氏は著名な香港民主活動家であり、英国籍も持っている。香港当局は、黎氏の裁判に対する国際社会の関心が非常に高いことを忘れてはならない。
20年6月の国安法施行後、香港の国際的な評価は下がり続けている。秘密裁判が決して許されないことを、香港当局も中国政府も認識すべきだ。
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2024年1月10日付産経新聞【主張】を転載しています