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このところ、筆者のもとには「トランプは勝ちますか?」「もしトランプが大統領になったら世界はどうなる?」という質問が、ハガキやメールで数多く寄せられている。一つ一つに御返事したいのはやまやまだが、今回まとめてお答えしたい。
トランプでいいじゃないか
最初にお断りしておくと、筆者の本業は、国内政治と鉄道に関するあれこれを関係者から話を聞きかじったり、列車に乗ったりして面白おかしく書くこと(「自民党崩壊」<ビジネス社>を上梓(じょうし)しました)であり、米国にはネタ元がない(第一、英語がしゃべれない)。
海外情勢の分析は、内外の新聞やテレビ、出版物など、現地の産経新聞特派員からの情報以外は、公開情報に頼っている。カッコいい言葉で書けば、オシント(オープン・ソース・インテリジェンス)ではあるが、岡目八目に過ぎない。
なのになぜ、読者から問い合わせがあるかといえば、8年前の米大統領選直後、「トランプ大統領で、いいじゃないか」という記事を書いたからだろう。当時、ほとんどの新聞・テレビは、米民主党のヒラリー候補が勝利すると思い込んで取材し、論評していた。だから想定外の「トランプ勝利」に動揺し、米国第一主義を打ち出した彼の登場を「悪夢だ」と言い放った専門家もいた。
そんなことはない、とへそ曲がりの筆者はこう結論を書いた。
「日米安保体制の枠内で憲法9条がどうの、安保法制がどうの、といったことが大問題となった牧歌的な世界はもはや過去となった。日本も米国に軍事でも経済でも過度に依存しない『偉大な国』を目指せばいいだけの話である」
結果はどうだったか。
時の安倍晋三首相は、いちはやく河井克行補佐官(公職選挙法違反罪で仮釈放中)を現地に派遣、就任前のトランプ氏と異例の首脳会談を行い、信頼関係を築いた。サミットなどの場で、激しく対立した米欧首脳の間に立って安倍氏が話をまとめたのもたびたびで、トランプ氏も日本に対し無茶(むちゃ)な要求はしなかった。
しかもトランプ治世の4年間は、世界的に大きな紛争は起きず、朝鮮半島情勢もつかの間平穏だった。
それはなぜか。逆説的に書けば、むき出しの「米国第一主義」があまりにもわかりやすく、相手国も対策が容易だったことと、「怒らすと何をしでかすかわからない」という恐怖感が、北朝鮮の金正恩総書記をはじめ独裁者たちを震え上がらせたのは、疑いようがない。プーチン露大統領もウクライナ侵攻を控えた。
「安倍晋三」はもういない
では質問にお答えしよう。ニューハンプシャー州の共和党予備選でも勝利したトランプ氏が、共和党の大統領候補になるのは疑いようがない。では、11月の本選はどうか。
選挙に絶対はないが、よほどのアクシデントがない限り、「トランプ大統領」が再び誕生するだろう。バイデン政権がもたらしたインフレによる生活苦が、前大統領の胡散(うさん)臭さを打ち消しているのだ。
だが、安倍元首相はもういない。いまから「トランプ対策」を講じておかないと、今度は本当に悪夢になってしまいかねない。派閥がどうのこうの、といった小さな話は聞き飽きた。
筆者:乾正人(コラムニスト)
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2024年1月26日付産経新聞【大手町の片隅から】を転載しています