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「後来の種子いまだ絶えず」。2月29日の衆院政治倫理審査会で唐突に幕末の志士、吉田松陰の言葉を引用した岸田文雄首相は、何を思っていたのか。後来の種子とは将来の種子、つまり種モミを意味する。首相は続けた。「今の政治を未来の世代に自信を持って引き継いでいけるか」。
もとは松陰が処刑前日に書き上げた遺書に当たる『留魂録』の一節である。松陰を尊敬した安倍晋三元首相が折に触れて口にしており、昭恵夫人が安倍氏の家族葬でこう挨拶したことで注目された。「(主人は)種をいっぱいまいているので、それが芽吹くことでしょう」。
松陰は同志らに、私の志を憐(あわ)れみ継承する人がいれば「すなわち後来の種子いまだ絶えず」と訴え、そこを考えろと説いた。首相は、現在の政治の志の低さを嘆いたのか。それとも自民党の安倍派幹部に対し、安倍氏の遺志を継いで芽吹いていないとやんわり叱責したのか。
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2024年3月2日付産経新聞【産経抄】より