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日産自動車が下請け業者への支払代金を一方的に減額したとして公正取引委員会が下請法違反と認定した。
コストダウンを目的に、約2年間で下請け事業者36社を対象に合計30億円超を減額していたという。公取委は日産に再発防止を勧告し、社長を中心とする順法管理体制の整備を求めた。
日産は令和6年3月期で売上高13兆円、最終利益3900億円を見込む世界的な大企業だ。自らの利益をかさ上げするために、下請け業者に支払代金の減額を強要する行為にはあきれるほかない。
デフレからの完全脱却に向け原燃料などのコスト上昇分を製品価格に適正に転嫁しようという機運にも水を差す。日産は減額分全額を下請け業者に返還しているが、猛省を求めたい。
下請法は下請け企業に原因がある場合などを除き、一度決めた支払代金を一方的に減額することを禁じている。公取委はこうした下請法違反行為が自動車業界全体で相次いでいるとし、業界団体である日本自動車工業会に再発防止を申し入れる方針も示した。
政府は中小企業が賃上げを実現できるよう、取引の相手である大企業に対する監視を強めている。
公取委は原材料費など中小企業のコスト上昇分を取引価格に転嫁するための交渉をしなかったなどとして、4年12月に大企業の社名を公表した。昨年11月には中小企業の人件費について取引価格に転嫁できるようにする指針も示している。
経済産業省も昨年2月、コスト上昇分について中小企業との価格交渉や転嫁に後ろ向きな大企業の実名を初めて公表した。取引の実態を調査し、下請け企業の保護を図る専門調査員「下請けGメン」も約300人体制に増員している。
歴史的な物価上昇に賃上げが追いつかず、物価変動を加味した実質賃金は前年割れが続く。物価上昇を上回る賃上げを社会全体で実現するには、雇用の7割を占める中小企業にも波及させることが欠かせない。
発注側の大企業は日産に対する勧告を他山の石とすべきだ。コスト上昇分を取引価格に適正に転嫁し、賃上げを社会全体に広げていかなければ、デフレからの脱却がおぼつかないことを改めて銘記したい。
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2024年3月8日付産経新聞【主張】を転載しています