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遠くから野太い汽笛が聞こえると、白や黒の煙を吐きながら真っ黒な蒸気機関車がやってきた。まるで生き物のような力強い走り。御年101歳のSLが3月23日に引退した。
JR九州の観光列車「SL人吉」。国内で営業運転を行う蒸気機関車としては最も古かった。
8620形蒸気機関車、通称「ハチロク」は大正3年(1914年)から製造が開始され、「58654号機」は大正11年の製造。九州各地で活躍し昭和50年(1975年)でいったん引退した。その後、熊本県人吉市で保存されていたが、昭和63年に「SLあそBOY」として復活、平成21年(2009年)からは「SL人吉」として肥薩線で運行された。令和2年(2020年)の熊本豪雨により、同線の八代駅(熊本県)から吉松駅(鹿児島)間は線路や橋梁の流失など甚大な被害を受け運休となり、令和3年からは鹿児島線の熊本駅から鳥栖駅(佐賀県)に運転区間が変更となった。
引退発表後、沿線や駅では多くの鉄道ファンなどが集まった。熊本市北区に「SL人吉ありがとう さようなら」と書かれた巨大な看板を制作した建設会社社長の太田行雄さん(71)は「昔からずっと見てきた車両なので、最後は自分なりの見送りをしたい」と話した。運転終了後の同機の今後について、JR九州の広報担当者は「現段階では未定」とした。
客車をけん引し、目の前をさっそうと走り抜けるハチロク。黒光りする車体が「まだまだだ、若いものには負けないぞ!」と訴えているようだった。
筆者:鴨志田拓海(産経新聞写真報道局)